小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

番外 アガサ・クリスティー完全攻略(霜月蒼著)

 小説、特にシャーロック・ホームズ物語が大好きで、友達がいなくて空想好きな少女が、好きが高じて19歳で小説を書き始めました。その後いくつかの作品を出版社に持ち込みますがなかなか採用されず、30歳になってようやく1920年「スタイルズ荘の怪事件」が発刊され、「そこそこ」の評判を得ます。

 小説を発表する機会を勝ち取ったアガサ・クリスティーは、堰を切ったように作品を刊行し続けて、6年後「アクロイド殺し」で、自身の失踪事件も合わせて世間にセンセーショナルを巻き起こします。その後50年を超える作家生活の中で、質・量ともに他に追従を許さない作品群を発表し、「ミステリーの女王」と呼ばれます。

 私は当初(ネタばれもあって)、クリスティー作品に余り良いイメージがなかったのですが、きちんと読み直したいという思いも抱えていました。そんな中でこの本に出会うことができました。お小遣いが減額され、また断捨離に嵌まった配偶者から「余計なものを買うんじゃないわよ」と宣言されている中、どうしても欲しくて買った本(笑)。以来、今でも枕元に置いて、寝る前に時折眺めています。

 

*取り上げなかった名作① ガラス細工のような巧緻なプロットは、書評を寄せ付けなかった。

 

  私はクリスティーを読んだのは中学の時。「アクロイド殺し」「オリエント急行の殺人」「ABC殺人事件」「そして誰もいなくなった」でした。それ以外もちょくちょくと読みましたが、この歴史的名作を読んでクリスティーを卒業した気分になり、以降気になりつつも巨大な「クリスティー山脈」に挑む気持ちが薄れてしまいました。理由のひとつはこの本で書かれているように、クリスティー山脈を踏破するために必要な「ガイドブック」がなく、素人が攻略するには難関なルート(?)だったこと。

 そしてもう一つは、山脈の正面にそびえ立つ派手な歴史的名作を読むことで、その奥に潜む「芳醇な」作品群を知らずに、「クリスティー山脈」を踏破した「錯覚」に陥った気分になってしまったことです。

 私と同じような「クリスティー体験」をしたと思われるミステリー評論家の霜月蒼。そして同じようにクリスティーとしっかり向き合おうと決意して、「完全攻略」に挑んだこの軌跡を描いた本作品。一言では説明できないクリスティー作品の数々を1つ1つ、ネタバレなしに解説し、読む気を与えてくれた見事な「ガイドブック」。そしてその期待に応えるクリスティーの作品群。おかげで平成・令和の10連休はほとんどクリスティー一色となりました。

 

*取り上げなかった名作② 「歴史的トリック」を、ネタばれなしで評するのは、私には不可能。

 

 そのため非常に感銘を受けたが、今回取り上げなかった作品も、合計で100を超えるクリスティー作品の中では数多くあります。中でも「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」そして「予告殺人」の3作品は、クリスティーファンならば「3連単(?)」で挙げるだろう作品たち。

 これらを取り上げなかったのは、感銘を受けなかったからでは決してなく、私の筆力不足で取り上げられなかったもの。様々な書評で語り尽くされているので、そちらにおまかせしました。そして他にもたくさんの作品たち。短編も含め、もう1つの「くくり」ができそうな陣容ですが、これらもまとめて将来のためにとっておきます。

  この本がなければ決して読まなかった、ポアロ物の「ナイルに死す」から始まる名作の数々、マープル物の「ポケットにライ麦を」を中心とした作品群、ウェストマコットの作品の数々、そして傑作「終りなき夜に生れつく」。後から考えればまさに「読まずに死ねるか!」レベルの作品が多数取り揃っていて、読むことによって「芳醇」な思いに浸ることができました。

 全世界で、聖書、シェイクスピアに続く発行部数を誇るクリスティー作品は読み手を選びません。そして読む時期、もしくは読み手の読書経験や人生経験によって様々な、不思議な色彩を帯びてきます。未読の人はもちろん、昔読んだ人も、この「ガイドブック」を片手に、芳醇な「クリスティー山脈」を踏破してください。きっと普段とは違う景色が見えるはずです。

 

*取り上げなかった名作③ タイトルが全てを解説しています。直接読んで傑作を「体験」してください。

 

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 さて、ホームズ、クイーン、クリスティーと「くくって」、20作品ずつ取り上げてきました。次回からようやく本来の目的である(私がくくった)「海外ミステリー BEST20」を取り上げます(クイーンとクリスティーを先に取り上げないと、ベスト20がかなり偏る恐れを感じましたww)。但しここでは「縛り」を設けます。

 1 いままで取り上げたホームズ、クイーン、クリスティーの作品は取り上げない。

 2 作品は今までの「くくり」と異なり、1作家1作品に絞る。

   (そして同じ作家で気になる作品があれば。それなりに触れる)

 3 ベスト20だが、「順位」ではなく「年代順」に並べる。

 

 1は当然。2は幅広く取り上げたいため。「20選」まではいかないけど、傑作を何作も発刊している作家もいますが、ここでは1作品に絞りました(将来、また新たなくくりとして取り上げる可能性もあるでしょう)。

 3は迷いました。当初の下書きでは自分の「ベスト20」の順番で書き始めたのですが、書き進めていく内に、新たな作品も過去の作品の積み重ねで生れていくことに気が付きました。またミステリーは、社会情勢や科学の発展に大きく影響を受けているので、時代の趨勢を無視できません。

 開き直って考えると、20作品を選んだあとは、順位にあまりこだわりがないことと、年代順に追って行くことが、読み手にとって読みやすく、また私も書きやすい(笑)ことに気が付きましたので、途中で大幅に組み替えました。ご理解ください。

 こんな形で、次回から「海外ミステリー BEST20(年代順)」をスタートします!