小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

10-2 時雨みち【市井物】(1981)

 

1 帰還せず

 公儀隠密の塚本半之丞は、加治藩の探索を終えて江戸に戻ると、同じく潜入した山崎勝之進が戻ってきていないと聞かされる。消されたか、それも本人の意志か。半之丞は山崎勝之進の消息を確かめるために足取りを追うと、殺害されたらしい形跡があった。しかし衣服は本人もものだが、死体は別人だったという情報が入る。すると突然、半之丞に斬り込む人物が現われた。

 *公儀隠密は、情に流されて油断をしては、いけない。

 

2 飛べ、佐五郎

 新免佐五郎は些細なことで仇持ちとなり、出奔して京都、大坂、江戸へと逃げ回る日々が10年以上続いた。途中おとよという女中と知り会い、ヒモのような生活を続ける。すると、佐五郎を狙う貝賀庄之助が亡くなったとの知らせが入る。緊張が解けた佐五郎は、これからの生活に思いをはせる。武士に戻って寺小屋でも開き、若い嫁をもらって人生をやり直す。そんな話をおとよ相手に語り始めた。

 *読み直して思う。藤沢周平は、よくもまあ、このタイトルをつけたもの。

 

3 山桜

 野江は桜の枝をを折ろうとするが、それを助けた手塚弥一郎は、先の夫が病死したあとに舞い込んだ縁談相手の1人だった。剣客と聞いて怖い人だと誤解して別の人と再婚したが、実際は心優しい人物だった。そして再婚した我儘な夫とは心が通わない。まもなく手塚が私腹を肥やす諏訪平右衛門を刺殺する。手塚は殿様が江戸から戻り断を下すまで投獄された。野江は諏訪と繋がる夫と離縁して、手塚を思う日が続く。

  

 *20ページほどの短い作品ですが、最後の「慟哭」に向けて、全てが収斂されています。そして映画も、全てが研ぎ澄まされていました(映画.com)

4 盗み喰い

 根付師の政太は、労咳持ちなのに大酒飲みで養生をしない、弟弟子の助次郎が気になってしょうがない。政太は身の世話を焼いては、忠告を欠かさなかった。そんな姿を見て、許嫁のおみつは腹を立てた。助次郎は甘ったれているというのだ。助五郎がまた熱を出した。政太は急な仕事で忙しいため、嫌っているとはわかるが、おみつ   に助五郎の面倒を見るように頼むことにした。

 *ありがちな話ですが、藤沢周平の手にかかると、また違った味わいを受けます。

 

5 滴る汗

 森田屋宇兵衛が城に入ると、いつもと違い物々しい。徒目付の鳥谷甚六から呼び止められ、出入り商人に公儀隠密がいるのがわかったと森田屋を見つめる。森田屋は祖父の代から公儀隠密としてこの地に入り、幕府に報告書を提出していた。家に戻ると証拠書類は全て始末し、追及されてもシラを切るしかない。その時、森田屋の下男をしていた茂左衛門に、一度だけ江戸に使いを何やったことを思い出す。

 *公儀隠密は、見込みだけで物事を判断しては、いけない。

 

6 幼い声

 櫛職人の新助は幼馴染の富次郎から、子供の頃一緒に遊んだおきみが、男を刺して牢に入っていると聞かされた。酌婦のおきみは、貢いでいたヒモから捨てられて、逆上して刺した。幸い命に別状はなく、半年ほどで牢から出られるという。おきみは16歳で奉公先のどら息子からおもちやにされて人生が曲がってしまったという。おきみが牢から出る日、新助と富次郎は、おきみが出でくるのを待った。

 *ありがちな話ですが、相手の心を想像すると、読者それぞれの物語が生まれます。

 

7 夜の道

 伊勢屋の女将、おのぶは、当時3歳だった娘が人にさらわれ、以来娘を探し続けている。するとおすぎという,拾われて育った娘の話を聞いた。こっそり見ると、自分に似ている。しかし話してみると、子供の頃のことは覚えていないという。おすぎはその後世帯をもって子も授かった。ある日夫婦喧嘩になり家を飛び出すと、泣きながら子がついてくる。しかししばらくすると、泣き声が聞こえなくなった。

 *忘れた記憶が突然甦る。良くもあり悪くもあり、そして変わらないこともある。

 

8 おばさん

 40歳になるおよねは、亭主が死んで老け込んでしまった。そんなおよねに空腹を抱えた19歳の忠吉が紛れ込んできた。なんでも奉公先が家事で仲間とはぐれてしまい、同僚がこのあたりに住んでいることを思い出して、たどり着いたらしい。およねは、忠吉が居候している間に、自分の養子になってくれないかと考えるが、忠吉の思いは別のところにあった。

 *現実はそう甘くはない。けれどもつかの間の夢を見ることができただけでも、幸せか。

 

9 亭主の仲間

 おきくの亭主の辰蔵が、仲間の安之助を連れてきた。見かけは感じの良い若者に見えたが、そのうちお金をせびるようになる。・おきくはだんだんと恐ろしく思えてくる。しばらくすると辰蔵から、安之助はクビになったと聞いた。安心したおきくだが、辰蔵が留守の時に安之助がまた金をせびりにくる。今まで借りた大金を一文も返さず、のっぺりとした口調で。

 *現代の「イヤミス」のような作品。このような人間は、昔も今もいるもの。

 

10 おさんが呼ぶ

 おさんが伊豆屋展に奉公してから5年、地震の時に「こわい」と叫んだだけで、話せない娘。その伊豆犀に兼七という紙漉屋がやってきた。村の乏しい収入減となるよう、必死になって取引先を回っては、ロの訊けないおさんに報告をしていた。おさんは、同業者が賄賂を使つて、兼七の仕事を横取りする企みを聞くが、伝えられないまま兼七の取引は失敗してしまい、肩を落として村に帰ることになった。

 *恐怖の体験から声を失った娘。取り戻すには、心のカギを開ける愛情が必要。

 

11 時雨みち

 奉公人から機屋の主人に収まった新右衛門に、奉公人仲間だった市助がやって来た。市助は喜ぶ様子もなく、礼も言わずにお金をせびる。ある日市助は、新右衛門が無下に捨てたままの、おひさの消息を伝える。おひさは別れた後苦界に身を沈めたと聞く。新右衛門はおひさを訪ね、二十両の金を渡すも受け取らない。そして新右衛門が去る時に聞こえたおひさの泣き声は、別れ話をした後の泣き声だった。    

 *最後の泣き声には様々な感情が込められている。恨みと意地と愛情と、そして自らの人生に対して。

 

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