![暁のひかり (文春文庫) [ 藤沢 周平 ] 暁のひかり (文春文庫) [ 藤沢 周平 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/2419/9784167192419.jpg?_ex=128x128)
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1 暁のひかり
壺振りの市蔵はまともな仕事も考えるが、その道から抜けられない。気持ちの良い朝の光のおかげでそんな夢を見る。その時、市蔵は13,4歳ほどになる娘を見た。娘の姿勢が不意に崩れる。市蔵が走り寄ると「今一人で歩く稽古をしてるんだから」と言った。
その娘、おことと時々あって言葉を交わすようになり、その時は自分の素性を忘れることができた。しかしある朝、おことが酔漢に絡まれているのを見つける。市蔵は本性を現わし、酔漢を容赦なく殴り潰す。それをおことが見ておびえてしまう。
*人間には様々な感情が宿っている。誰にでもある人間らしい心。それが表に出せるのか、それとも陰に隠れたまま生涯終えるのか。その兆しを見た市蔵だが、それは「暁のひかり」のようにか細いものだった。
2 馬五郎焼身
馬五郎と女房のおつぎ、そして4歳の一人娘お加代。馬五郎は娘を可愛がって育てていたが、ある日おつぎの不注意でお加代は溺死してしまう。やり場のない怒りを女房に当たる馬五郎。周囲は見かねて離縁させるが、馬五郎の生活は荒れる。
その後、馬五郎は女といい仲になるが、それはヤクザの情婦で、その女は馬五郎の金を盗んで姿をくらましてしまう。ようやく見つけ出したが、ヤクザに返り討ちにあって瀕死の重傷を負う。その馬五郎を介抱したのは、別れた妻のおつぎだった。
*題名は直截的だが、藤沢周平らしい「含み」を持たせている。ちょっとした誤解とわだかまりで男女の仲は拗れてしまうが、そのわだかまりが解けた時は、時機を逸している場合が多い。
3 おふく
11歳のおふくが女衒に売られていく。その姿を幼馴染みの造酒蔵が見守る。広い草原に2人で行った時の、頼りなさげなおふくの姿を見てからの思いがあったが、何もできない自分が悔しかった。
そして時は流れ、造酒蔵はおふくに会いに行ったが、おふくは売れっ子になっていて、大金を積まないと会えない存在となっていた。酒酒蔵は金を稼ぐために、裏稼業に手を染めていく。
*少年と少女の草原での出来事は、ジブリのアニメを見ているような鮮やかさがあります。そのために本作品が迎える結末は、余りにも残酷。藤沢周平のストーリーテラーとしての才能が感じられます。そして「おふく」と題したタイトルもまた深い味わいがあります。
4 穴熊
浅次郎は、真面目な経師職人。働いていた経師屋の一人娘のお弓とは、ひそかに先を約束する仲であった。だがある日、その経師屋が莫大な借金を抱えて倒産し、一家は夜逃げ同然に姿を消した。お弓は十七歳だった。
浅次郎は失意から博打打ちとなり、見る見る腕を上げ、イカサマの業「穴熊」も見破る腕前になる。そんな中でもお弓を探すが見つからない。そこへ買春の手配師がお弓に似た女がいると紹介する。ところがその女は武家の身持ちと見られた。
*前作「おふく」と同じようなテイストの作品ですが、そこは藤沢周平。ここから1捻りも2捻りも加えて全く別物の作品に仕上げています。
*BSテレ東より
5 しぶとい連中
悪面の熊蔵、職業は博奕の借金の取り立て。ある夜、熊蔵は酔って帰る途中、橋の上で女が子供2人を道連れに川に飛び込む場面に出会う。熊蔵は彼女等を助けて、金まで与える。ところが先ほどの三人の親子が付いてきている。
しつこいので熊蔵は駈け出して家に帰り、翌朝目が覚めると、男の子と女の児が、室内を走り回っている。今日中に家を出ていけ、と怒鳴って仕事に出掛け、帰ってみると、子供たちは掃除をして家の中はすっかり片付き「お帰りなさい」と前垂れで手を拭き拭き女が現れる。
*「悪面の熊蔵」が、か弱い女子供にいいように振り回される様子が可笑しい。熊蔵の知らぬ処でどんどんと所帯じみていくユーモアの感覚も、藤沢周平はツボを押さえています。大好きな作品です (^^)
6 冬の潮
紙問屋の碓氷屋市兵衛は妻に先立たれ、半年前には息子も川に落ちて死んだ。嫁のおぬいがこの家を去り、実家に戻るという前の夜、市兵衛は最後の夕食をおぬいと差し向いでとった。まとまったお金を渡し、当座には困らないはずだった。
しかし市兵衛はおぬいに特別な感情を抱いていて、寝ているおぬいの小さな尻に、手を伸ばしてしまった。しばらくして、市兵衛は業界の集まりの席で、おぬいがひそかに色を売っている店で働いている噂を聞く。市兵衛はおぬいに会いに行く。
*おぬいに惑わされる市兵衛。そして「舅」に対するおぬいの気持ちはどうだったのか。「長い間、一人の女に対して潮がうねるように流れ向うものに翻弄されてきた」市兵衛。その結末はあまりに寂しい。
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