小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13-2 橋ものがたり ②【市井物】(1980)

 

 

 *愛蔵版(実業之日本社)の表紙。橋の上で思うのは、運命の岐路で背を向けてしまった、もう1つの人生か。

 

 

6 約束 (萬年稿)    

 幸助は鋳(かざり)師での8年に及ぶ年季奉公がようやく明けると、まっさきに幼馴染みのお蝶に会いに、萬年橋に行く。お蝶は5年前に突然幸助の奉公先に現れて、引っ越しするので別れを告げていた。幸助はお蝶とそのまま別れがたく、5年後の七つ半(午後5時)に萬年橋で会う約束をしていた。以降幸助はお蝶のことを片時も忘れることはなく、懐にはお蝶のために作った箸を忍ばせていた。

 しかし幸助は5年の間に、ちょっとした隙に別の女と関係を持ってしまっていた。幸助は橋が見渡せる河辺からそっとお蝶を探すが、刻限を過ぎても姿を見せない。一方のお蝶も、幸助に会う日を待ちわびていたが、幸助には言えない秘密を抱えていた。

 

 

 *会いたいのに会わない2人を描く藤沢周平流。そしてその結末も、藤沢周平の得意技。写真は主演の北香那片岡千之助時代劇専門チャンネル

 

7 吹く風は秋(猿江橋)

 弥平が江戸に戻ってきたのは足かけ七年ぶり。弥平は親分の喜之助が見逃していることをいいことに賭場でいかさまをやったが、喜之助まで騙したことがばれると、弥平は命からがら江戸から出奔した。

 ほとぼりから冷めたと思い久しぶりに江戸に戻ると、そこに自分の居場所がないことがわかった。そしてふと知り会った女郎のおさよのことが気になる。おさよは根っからが博打好きで、女にだらしない亭主と暮らしている。その亭主を痛いめにあわせ、おさよのためにいかさま賭博をしかけて六十両を手に入れ、それをおさよに渡して江戸を去る。

 

 

*年を重ねると、今までの人生を悔い改めるもの。そしてその償いをしたくなるもの。こちらのドラマは橋爪功臼田あさ美が演じました(時代劇専門チャンネル

 

8 赤いタ日(永代橋

 橋のたもとに捨てられた孤児のおもんは、若狭屋に拾われると、若旦那新太郎の嫁として幸せに暮らしていた。しかし夫に女がいると噂が流れ、最近気にするようになった。そこに育ての親の斧次郎の使いが、おもんに会いたがっていると伝えに来る。

 おもんは、実の父ではない斧次郎と一緒に暮していたことを知られたくないために、嫁に入る時に孤児として育ったことにしていた。その斧次郎が病に倒れているという。おもんは意を決して、会いに行くことにした。しかし、それは罠だった。

 *人には必ず隠し事があり、そのまま話せなくなる。けれどもそれは、必ず誰かが知っている。

 

9 殺すな(永代橋

 3年前、小さな船宿のおかみのお峯と船頭の吉蔵が駆け落ちしたが、一緒になると、身を隠すような生活に塞ぎ込んでいく。引っ越しを繰り返す度に前の家に近づいていく様子を見て、吉蔵はお峰が元の亭主に未練があるのではないかと疑うようになった。

 ある日吉蔵が出した船に、お峯の亭主の利兵衛がいた。利兵衛はお峰を探し当て、吉蔵も袋だたきにあわせるが、お峯に未練がある吉蔵は、亭主の家に続く永代橋を渡ったら殺す、と告げる。しかしお峯はここらが潮時と思い、吉成のためにも戻ることにした。吉蔵はお峯を殺そうとして追いかける。

 *愛情は相手への束縛に変わり、相手が心変わりをすると狂気へと変貌する。今の時代に繋がる話。

 

 

10 川霧(永代橋

 新蔵は霧が立ちこめる永代橋で倒れていたおさとを介抱し、それがきっかけで親しくつきあうようになる。しかしおさとには乱暴者の亭主がいて、新蔵は子分たちからひどい傷を負ってしまう。亭主への愛情がすっかり冷めていたおさとは、新蔵を介抱すると、そのまま新蔵の家に転がり込んで来た。

 しかし6年経って、おさとは突然姿を消した。島送りになった亭主が帰ってきた知らせが入ったらしい。おさとはもうここへは戻ってこない。新蔵は「もう探したりしちゃいけねえのだ」と思った。ある日橋の半ばで、小さな人影が近づき、そして走り寄ってくるのを見た。おさとだった。

 

 愛蔵版には、藤沢周平とその娘が「橋ものがたり」に関わる話が記されています。あまり気乗りでなかった連作短篇集の依頼。作っていくうちに「市井物」のスタイルを確立できたという思い。そして様々な「橋」にまつわるエピソード。

 読者としてこの短篇集を読み終えると、最後の作品「川霧」のように、橋は出会いと別れを演出し、過去と未来を繋げると、心底感じます。

 

arashi-golf.hatenablog.jp

*そして3つの作品に登場した永代橋の現在を見るならば、id:arashi_golf さんのブログです。arashi_golfさんは、古地図に載っている東京界隈を様々な角度から撮影していますので、合わせて見ると更に楽しめます。

 

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