小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

10-1 時雨のあと【市井物】(1976)

時雨のあと」と「時雨みち」。直接の繋がりはありませんが、むりやり前後編でまとめて紹介させていただきます。こうしないと「20選」では作品が溢れてしまいます (^^)

 

1 雪明かり

 菊四郎は12歳の時に280石取りの上士、芳賀家に養子に出された。一方生家の古谷家は35石取りの小禄に加えて、7人家族の貧乏世帯だった。養子の条件として、菊四郎を実家に出入りさせない内容だった。

 ある日義妹の由乃と出会い、縁談が決まった話を聞いたが、余り喜んでいる様子はない。そして嫁ぎ先で由乃は病気にかかっているとの噂を聞く。嫁ぎ先ではそんなことはない、と由乃を隠す。

 *縁が切れてしまった実家の、血の繋がっていない義妹を心配する兄。義妹の嫁ぎ先でも、そして自身の養家でも、家の対面を気にして血の通う対応ができない。そんな窮屈な環境に菊四郎は・・・・

 

2 闇の顔

 城内の石垣修理現場で、普請奉行と助役の2人が斬られた死体が発見される。当初は相打ちに見られたが、斬り口から剣の達人が2人を切り伏せたと推察された。捜査する伊並惣七郎は、次第に藩で不正な蓄財に励む丹羽内記が怪しいと睨む。

 殺された助役の父は、丹羽内記と藩主の前で激論を交わし、それが元で禄を返上して百姓になり、息子は養子に行ったという。そして息子は不正の証拠を握っていた。

 *さて犯人は誰か。藤沢周平らしく予想外の人物が顔を出してくる。そんな息もつまる物語の中に、惣七郎の妹幾江が天真爛漫に、親友との婚約話を繰り広げるのが「闇」に風穴を開けてくれる。

 

3 時雨のあと

 安蔵と妹のみゆきは幼い時に親が失踪し、鳶を抱える頭で、賭場も営む金五郎に引き取られた。安蔵は鳶として真面目に働き、後に妹と2人暮しを始めるが、怪我をして治療費が払えないため、妹を女郎に沈めてしまう。

 直ぐに請け出す約束だが、怪我をして満足に働けない安蔵は稼ぐことができない。焦った安蔵は博打に手を出すが、十両もの借金をこさえてしまい、妹に金をせびるようになってしまった。

 *だらしない兄に思えるが、人生が転落するにはそれなりの理由がある。本当は真面目だった兄と、それを信じる妹。そして最後まで読むと、もう一度題名が持つ余韻に浸りたくなる。

 

4 意気地なし 

 伊作は十日ほど前女房を亡くし、乳呑児を抱えて途方に暮れている。同じ長屋に住むおてつは、さえない伊作と子供に対して、気になってならない。伊作は満足におしめを替えることもできず、乳呑児が一日中泣いている。

 おてつには、いなせで男らしい作次という婚約者がいる。作次と会っても、おてつは乳呑児のことが気になって上の空の状態になり、作次との会話もちぐはぐとなっていく。

 *これはもうあらすじ通りの物語。そしてタイトルから、結末もおおよそ想像通りだと思います。下町の長屋に居そうな、世話焼きで明るい女の物語です。

 

5 秘密 

 筆屋・鶴見屋の先代、由蔵は76歳になり、すでに耄碌も進んでいる。そんな時不意に若い頃の悪事を思い出した。

 嫌々ながら加わった博奕で由蔵は、汗水垂らして貯めたお金を失う。悔しくて博奕にのめり込むが、気が付けば賭場に五両もの借金をこしらえ、返金を迫られる。期日刻限までに返金しなければ、奉公先乗り込むと脅される。ついに由蔵が奉公先のお金に手を出すのだが・・・・

 耄碌が進んだ中で思い出した過去の悪事。その時の謎を由蔵は都合良く片付ける。それがきっかけで仕事に精を出したのだから、本当は「手のひらの上で踊らされた」と真実を知るよりもいいかもね。

 

6 果し合い 

 佐之助は昔、果し合いで負傷したため婿養子の話が消えて、兄の部屋住みとなり、家督が甥に代わると「厄介叔父」となってしまった。皆から厄介者扱いされる中、娘の美也だけは佐之助を大事に扱っていた。

 美也に縁談の話が来るが、美也には言い交わした人が居て縁談を断る。それに腹を立てた相手は、言い交わした男に果し合いを挑む。男は剣術に自身がなく、美也は佐之助に助っ人を頼む。

 *若い頃の果し合いで人生が狂った男が、年老いてから同じような果し合いの場に向かう若い男女に手助けする。それは可愛い娘を手助けするだけでなく、若い頃の禍根を断ち切るためでもあった。

 

 

 *こちらもドラマ化されました。主役の仲代達矢桜庭ななみ時代劇専門チャンネル

7 鱗雲

 小関新三郎は役目を終えて帰路につくと、若い女が倒れている姿を見つけた。高熱を発していてそのままにしておけない。担いで家に帰り母に看病をさせた。雪江と名乗った娘は数年前に亡くなった妹に似て、母は献身的に看病をする。

 雪江は回復して目的地に旅立つ。新三郎には美しい許嫁の利穂が居たが、婚儀は理由もなく延ばされていた。そして利穂は、息子が怪しげな遊びをしていると噂の家老の家に出入りする噂を聞く。そして許嫁は自害してしまう。

 *秋の空高くに浮かぶ鱗雲。天と地の大きな空間は様々な想像を巡らせます。空気も冷たく感じる季節中に生きる男女。そこには悲しい別れもあれば、新しい出会いも待っている。印象に残る作品です。

 

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