小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

「どうする家康」 今さらの感想

 

 今年の大河ドラマが決まった時、臆病者の徳川家康を描いた池上金男著「遁げろ家康」を思い出し、「狸おやじ」を松本潤が演じると聞いて「?」でした。

 第1回放送を観ると、悪女と言われる瀬名(築山殿)演じる有村架純、そして家康を「白兎」とよぶ「岡田信長」(今思えば、今年彼らを巻き込んだジャニーズ問題を連想させる・・・・)に首をかしげ、とどめはCGのお馬さんと火縄銃の連射のシーンで遂にギブアップ。

 

  *Yahoo JAPANより

 

 それでも「阿部信玄」に未練があり、結局は三方ヶ原の戦い以降、瀬名と「ムロ太閤秀吉」を除いて視聴させていただきました。そこで印象に残った、鳥居強右衛門や夏目広次のシーン、北川景子の演技は過去のブログで既に触れさせて頂きました。

 そして最終回の、見事なフィナーレに感服。

 そんな不真面目な視聴者ですが、印象に残ったシーンを「今さらながら」取り上げたいと思います。

 

1 印象的な「後ろ姿」

 本能寺の変の前夜、安土城から堺の町に移り遊覧する家康。そこで意外な人の情報を聞いて捜す場面。その相手、お市の背後にカメラを置いて、家康が捜して見つけるシーンは印象に残りました。この市を背後から映すシーンは、その後家康に謀反をそそのかす演技にもつながったと思います。

 

   

 *北川景子は、お市の時は戦国の世に翻弄されながらも、家康をそそのかす芯の強い役で、茶々と演じ分けました(スポニチアネックスより)

 

 間もなく本能寺の変が勃発し、家康は伊賀越えで逃走しますが、途中捕まってしまい絶体絶命。そんな時に井戸の中(?)から出てきた本多正信の後ろ姿もまた印象的。

 若い時は家康を裏切って三河追放となるも、その後家康の知恵袋となった本多正信ですが、とぼけた語り口で家康の窮地を救っていきました。そんな人物造型と登場の仕方が、上手く重なったと思います。

 私は本多正信と言えば、TBSドラマ「関ヶ原」で本多正信を演じた三國連太郎の印象が強く、迫力は段違いでしたが、軽妙な正信を演じた松山ケンイチも、また印象的でした。

 

  

 *TBSドラマ「関ヶ原」では、森繁久弥が家康を、そして三國連太郎が「謀臣」本多正信を演じました(比較するのも変ですが・・・:KING MOVIESより)

 

2 印象的な「正面図」

 画像だけで迫力充分の「阿部信玄」。三方ヶ原の戦いで正面から捉えた武者姿は、画面からはみ出るほどの迫力。徳川家康に立ち塞がる大きな「壁」としての強い存在感を示しました。

 対して小牧長久手の戦いでは、徳川四天王の内、本多忠勝榊原康政井伊直政の3人を、各人正面から同じ構図で捉えました。天下人秀吉に立ち塞がる、固い覚悟と自信がみなぎる姿は、三河武士の強さと成長を見事に表現しました。

 当初は家康に反発していた井伊直政が家康に忠誠を誓い、関ヶ原の戦いでは「捨てガマリ」島津軍に立ち向かい、その時の負傷が原因で先に亡くなります。残された本多忠勝榊原康政も、家康が天下人になるのを見届けた後、役目を終えたかのように、相次いで亡くなりました。

   

 *家康に立ち塞がる巨大な壁を演じた「阿部信玄」(ORICON NEWSより)

 

 

3 もう一人の四天王

 長篠の戦いの前に「走れメロス鳥居強右衛門の活躍を放映しましたが、もう1人、戦い前夜に活躍した人がいました。それはドラマではムードメーカーに徹した酒井忠次

 武田軍に夜襲を進言して信長から認められ、自らが軍勢を率いて、大迂回して相手方の背後を襲います。この奇襲で武田軍は「鉄砲の三段構え」の前に押し出され、合わせて包囲されていた長篠城を救出することに成功します。本軍から離れた奇襲軍は、小牧長久手の戦いの豊臣秀次のように、時に全滅の危険があります。また川中島の戦いの「啄木鳥戦法」も、信玄は上杉謙信に見抜かれましたが、酒井忠次は見事に成功させ、武勇でも秀でていることを見せつけました。

 その酒井忠次を象徴する「えびすくい」ですが、これは本当にあった話のよう。重苦しい雰囲気に包まれると、酒井忠次が踊ってその空気を払拭し、織田信長もえびすくいを見て喜んだと言います。

 

  

 *長篠の戦い酒井忠次が奇襲した経路(まっぷるトラベルガイドより)

 

4 「鯉」

 徳川信康と五徳の婚礼の前に、信長から貰った鯉を家臣が食べてしまったエピソード。今までなんども「鯉」を匂わせていましたが、最後の最後に明かされました、

 信長から与えられた鯉を、家臣が食べてしまう話も実際にあったようです。そのエピソードをドラマでは、「普通の人」家康と、家康を支える三河武士団の結束力の象徴としました。

 「どうする」と悩んでいた家康が「戦国の亡霊」たちと対峙することで、自らも成長せざるを得なくなった人生。そして三河武士団の支えによって「戦乱のない世」を導いて「神」に祭り上げられたストーリー。その人生を振り返るのに相応しいものでした。

 

  

 *ラストは全員で「えびすくい」(サンスポより)

 

 

 家康最期の時に、最初は違和感が拭えなかった瀬名の有村架純が「アッケラカン」と登場し、苦難が連続した人生の労をねぎらう姿。そしてラストシーンの遠景で21世紀の平和な東京、家康が築いた江戸から続いている東京を挿入させた試み。共に好みは分かれると思いますが、私は冒険的な演出が見事にハマった、と受け止めました。

 

 昨年の「鎌倉殿の13人」でも感じましたが、1年にわたって続くドラマだからこそできる、様々に張り巡らせた「伏線」を、充分に生かし切った作品と思いました(12月29日の総集編、録画しよっと💦)。