小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

3 金ケ崎の四人 信長,秀吉,光秀,家康 鈴木 輝一郎(2012)

 

【あらすじ】

 1570年、織田と徳川の連合軍は3万の兵を擁して京にいた。秘密主義の信長に対し、信長の意図を的確に読み取る秀吉は家康に、越前を目指すだろうと告げる。そんな家康は、人質の時代が長かったため家臣との付き合いも乏しく、また家臣から好き放題に言われる立場。そのため油断をすると、当主の座から追われてしまう恐怖と戦いながら、信長と同盟を共にしている。

 

 信長はそんな家康の胸中を知ってか知らずか、家康の陣中に入り食事を共にして、猛将本多忠勝ら家臣団と交流して、信長なりの家康への信頼を示す。信長の行動には1つ1つに意図があるが説明はしないため、家康以外の家臣には伝わらない。それを苦労人の家康は一々「通訳」して家臣に説明する。

 

 行軍先は越前朝倉攻め。作戦も明智光秀が「面白くない」と言うほど完璧なもので、戦いが始まると早速金ケ崎城を落として順調に見えた。気がかりは浅井長政がなかなか姿を現さないところ。家康は自領から離れた戦場で危険な目に会うのは馬鹿らしいと、浅井の連絡担当で調子の良い秀吉の報告について 「ダメ出し」をするが、信長は浅井長政を信頼しきって、家康の心配を歯牙にもかけない。 

 

  

 *本作品を原作に、バカリズム脚本で「僕の金ケ崎」が放映されました(御殿場フィルムネットワークより)。

 

 そんな家康の陣に浅井長政が姿を現す。家康を攻撃する長政を見て、信長を裏切ったことを知る。家康は護身のために学んだ剣術で浅井長政を追い払うが、森や樹木に隠れてゲリラ戦で信長を討とうとしている浅井長政を見て、その場での戦いを諦めて信長本陣に行き、状況を大急ぎで知らせようとする。

 

 ところが金ケ崎城の本陣で家康が見た光景は、兵士がことごとく喉を突かれて絶命している絶望的な光景だったが、そんな中光秀に覆われた信長を発見する。窮地に追い込まれた信長は「自害する」と叫ぶ。光秀と秀吉は思わず家康を見て、決意を翻すように説得を依頼する。こんな戦場で犠牲になりたくない家康は必死に信長を説得すると、信長は次第に耳を傾けて、地元の大名朽木元綱を呼ぶように命じる。

 

 家康、秀吉、光秀が協議する中、信長は朽木が来るや道案内人役として、「殿軍、秀吉に申しつける」と置手紙1つで逃げ云ってしまう。それを見て「またハズレの主君をつかまされたのか」と嘆息する光秀。「領主本人を人質にとりゃーすとは、やることがきたない」と不満を漏らす秀吉。苦労人で心配性の家康は、信長も含めてそんな者たちに振り回されながらも、この窮地から脱出しなければならなかった。

*本作品の続篇です。

 

【感想】

 信長が絶体絶命の窮地に陥った、金ケ崎の退き口。今川家と代々のしがらみがある徳川家康と同じように、いくら朝倉家との繋がりがあっても、浅井長政は決して裏切らないという「根拠のない自信」を根拠に立てた計画が、予想外の浅井長政の裏切りで根底から覆った。信長は単身で戦場から京に戻り九死に一生を得るが、その途中、杉谷善住坊に鉄砲で狙われるなど、危機一髪の状況に陥った。その後信長は敵を徹底的に「根切り」するなど、戦略も戦術も一変させたと言われる事件

 そんな事件を「死して残せよ虎の皮」を始め、信長関連の作品をいくつも著した鈴木輝一郎が、各人の特徴を「デフォルメ」しながらコミカルに描いた異色作。

 信長は人の斜め上から物事を考えるが、説明がないため人から信用されない。対して自分は「決して他人は信じない。ただし、信じるときは徹底的に信じる」として浅井長政を最後まで信用していた。また信長を、数百人までの「喧嘩」や、数万人の軍勢を集めて「戦略的」に勝利をつかむことは天才的に上手だが、数千単位の中規模な戦闘にはからっきし弱いとしている

 明智光秀は、反対に信長にないものを持っていて「戦は武田信玄並みに上手」だが、性格にヤマっ気があって、目立ちたいのか無茶な提案ばかりして、心の底は何を考えているのかわからない。

 木下秀吉は要領ばかりよくて、信長に認められたいがために人の嫌がることに気を配り、そのため自前の足軽を鍛えることをせず、弱兵と周囲から軽んじられる。

 そんな秀吉を家康はただ命が惜しいだけではないかと睨む。返す刀で天才軍師竹中半兵衛も「偏屈者」扱いと、これまた鈴木輝一郎の「斜め上」から見たシュールな表現が冴えわたる。

*更に続篇です。

 

 しかもそのように描きながらも、信長、家康、秀吉、光秀と、どれもこんなこと言いそうだな、という会話をうまく繋げているところが「信長専門家」鈴木輝一郎の真骨頂。そして信長も含めて4人が、この「修羅場」を通してそれぞれ成長する姿を描いているところが秀逸。

 信長は人を全面的に信用することを改め、自分を見つめ直す。

 秀吉は殿軍を命じられて、失禁(笑)しながらも全軍を鼓舞して、一皮むけていく。

 光秀は協調性のない性格だが、最後には「もっと大人になれ」と諭される。

 そして本作品の「視点」の役割をもった家康。小心者で疑心暗鬼な性格だが、修羅場を通じて開き直り、一境地を開いた印象を受ける。

 

 この戦いの後信長は覇道へと突き進み、「中世の亡霊」を破壊して新たな秩序を打ち立てようとする、ターニングポイントをユ一モア全開に描いた。

 そんな歴史小説に、なぜか最後にどんでん返しが起きる。「手練れ」の鈴木輝一郎が描いた本作品は評判が良かったためか、「姉川の四人 信長の逆切れ」,「長篠の四人 信長の難題」,「桶狭間の四人 光秀の逆転」と続編が登場して、それぞれ「おなじみの4人」が楽しませてくれる。