小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18  覇王の番人(明智光秀) 真保 裕一(2008)

【あらすじ】

 美濃の名家で源氏の流れを汲む明智家の嫡流明智光秀。比類なき能力の国主、斎藤道三に魅かれる が、息子義龍との戦いに敗れろと、光秀は美濃を追われ越前の朝倉義景に身を寄せた。朝倉義景の元にはもう1人、上洛を願う足利義昭を迎えていたが、義景は義昭のために出征する気持ちは ない。義昭らを接待する光秀は、家臣の細川藤孝と意気投会して、織田信長を頼るよう勧める。

 

 光秀は朝倉家を見限り、織田信長と誼を通じる。信長に手を貸し美濃調略、そして北伊勢に侵攻するが、その際、織田兵に両親を殺害された小平太に襲われる。しかし小平太は光秀を倒すことができず、逆に銭を恵んでもらう。屈辱に燃える小平太は、弦蔵という天狗と会い、必死で修行して忍びに成長した。そして修行を終えた小平太は、奇しき縁で主は明智光秀と定められた。

 

 織田信長は怒涛の勢いで上洛し、足利義昭は第15代征夷大将軍の宣下を受ける。しかし信長の威勢のみが増すことに面白くない義昭は、信長包囲網を敷く策略に没頭する。そんな義昭に見切りをつけた光秀は、幕臣の地位を離れて信長の傘下に入る。戦功を挙げる光秀は、外様にもかかわらず信長から厚遇され、その信任も厚かった。

 

 しかし天下統一が目前に迫ると、信長の所業は目に余るものとなってくる。朝廷を脅して征夷大将軍太政大臣の地位を狙い、更には日本の王たる地位を目指すようになっていった。家臣も処罰し、武田家消滅のあとは徳川家康すら亡き者にせんとする信長の姿をみて、光秀は苦悩する。

 

  明智光秀Yahoo! ニュースより)

 

 そんな光秀に古くからの友人で、今は光秀傘下で寄騎になっている細川藤孝が、信長を討つ策略を持ちかける。その言葉を信じて光秀は信長を討つことを決意するが、各地へ送り出された伝令は、殆どが待ち伏せされて、使命を果たすことができなかった。毛利への密使として立った小平太も、同じ忍びの仲間によって途中で妨げられる。ここに来て小平太は真相の一端に辿り着く。

 

 一方光秀は本能寺で信長を、そして妙覚寺の信忠を討ち果たす。ところが挙兵を焚き付けたはずの細川藤孝は、信長の喪に服するとして出兵せず、同時に筒井順慶も兵を引いてしまった。一旦は安土城を占拠した光秀であったが、朝廷工作は予想以上に難航する。ここで光秀も真相に気付く。

 

 羽柴秀吉は向かい合うだけの毛利軍の脅威を信長に訴え、信長が少数で行動する罠を設定していた。事前に本能寺の変を予測していた秀吉は、準備していた「中国大返し」を行ない、光秀に迫った。光秀軍が雨で鉄砲の威力を発揮しえないうちに天王山を抑えた秀吉軍は、一気に光秀重を駆逐する。敗走した光秀だったが、家臣が影武者に立ち、小平太の手引きにより、密かに命を取り留めた。

 

 時は流れ天正十五年、江戸に入った徳川家康は、領下の無量寿寺に住む天海を呼び出した。

 

 *明智光秀大河ドラマの主人公になるとは思いませんでした。そして「麒麟がくる」では、明智家の家紋「水色桔梗」に寄せた、青の画面が印象に残りました(NHK)。

 

【感想】

 江戸川乱歩賞を受賞したミステリー作家の真保裕一の手による、初めての歴史小説。信長から有能と認められていたにも関わらず、既存の歴史小説では信長や秀吉から見て、明らかに劣っているように描かれていたのに反発して、調べ始めたのが発端という。

 しかし歴史ではよくあること。司馬遼太郎が既に述べているが、歴史では「信長記」「太閤記」などの記録(宣伝物)が残っている主人公が英傑とされ、敵役は主人公を持ち上げる存在に過ぎなくなる。

 本作品で描かれる光秀は、文武に秀でて、織田家でも重用されるが、比叡山の焼き討ちや一向宗徒への「根切り」などの残虐性を間近で見て、徐々に追い詰められていく「実行犯」を演じている。ここまでは従来の解釈を踏襲している。

 そして本能寺の変の真相を、ミステリー作家らしく「一番怪しくない人物」を黒幕(真犯人?)と設定している。本能寺の変の「真相」として、様々な黒幕説が世に出回っていて、私は一周回って光秀単独説と捉えているが、それでは物語としては面白くない(笑)。見事に黒幕の思惑に嵌まった光秀。対して黒幕の細川家を、足利将軍家に絡みついた「武家の藤原家」としての性格を生かして、本能寺の変だけでなく、山崎合戦、そして関ヶ原の戦いまで描いてその「家の宿命」を補強している。

 またこの細川家を軸の1つとしていることで、小平太の存在が「生きる」。凄惨な幼少期を過ごしたが光秀に救われ、そして光秀の目指した戦のない世の中に共鳴して、忍びとして活躍の場を与えられる。

 修業時代に忍びとして生きる先を見いだせず、手を取り合って逃げた男女が、掟に従い命が絶たれた。そんな男女の想いを羨望の目で見ていた小平太が、光秀の娘玉子への叶わない思慕を抱えることで、物語の最後に大きな意味を持つ。

 

*小平太と同じような少年時代を過ごした、松永久秀を描いています。

 

 そして最後に繰り出した、ミステリー作家らしい「1人2役」。一応「トリック」が成立する理論付けをしているが、これは果たしてどうか。そして1人2役は光秀1人だけはなく、天海側の説明も必要。

 物語の最後は、小平太そして玉子(細川ガラシャ)が生き延びたのではないかという話で締めている。その事実を探りに訪ねて来た武家は、細川家の若君様との設定。細川忠興と玉子には3男2女が生まれているが、長男、次男は家督を継がず、家康の覚えめでたい三男忠利が当主となっている。

 

*同じくミステリー作家の顔を持つ岡田秀文は、また違った解釈で本能寺の変に迫りました。

 

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