小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

10 虚飾のメディア 北岳 登 (2004)

【あらすじ】

 関東テレビ・報道局のエース小林昭介は、経済情報部長に異動するとともに、局の看板ニュース番組「ワールド・ナウ」のプロデューサーに任命される。視聴率第一主義を標榜する関東テレビは、制作費の流用や社内恋愛などがはびこり、社内の倫理規定よりも数字が優先して、小林の目から見るとジャーナリストとしての体をなさない状況だった。そして番組は親会社である巨大新聞社からの出向者と生え抜き社員との社内抗争や外部プロダクションとの癒着、そして看板キャスターやコメンテーターが自分本位な態度を取ることで、周囲は振り回されて疲弊していた。

 小林はプロデューサーとして、使命感を持って1つ1つ問題を取り除き、そして知恵を絞って順調に視聴率を取り戻していく。小林の思いが徐々に形になり、立場も揺るぎないものになっていって社内倫理にも力を入れようとした矢先、看板の番組スタッフによる視聴率操作事件が発覚する。視聴率を優先する会社の構造が引き起こした事件だが、経営陣は小林の部下をトカゲの尻尾切り的な対応で事態収拾を図ろうとする。小林は、質の高い番組作りと視聴率獲得のはざまで苦悩を深め、ある決断を固める。

 

【感想】

 本作品の冒頭にある登場人物の紹介欄だけで、モデルのTV局は簡単に想像がついてしまう。作者の北岳登は「全国紙記者を経て民放テレビ局プロデューサー。2004年に退社し出家」とプロフィールにある。そして退社した年に、本作品が第一回ダイヤモンド経済小説大賞の佳作を受賞して発刊される。またペンネームの北岳登だが、主人公の小林は学生時代、北アルプス中央アルプスを登っていたと語っている。

   日本テレビウィキペディアより)

 

 全国紙記者出身の作者だが、本作品で登場する新聞社出向組の描写は辛辣である。報道については生え抜き組を見下し、セクハラ、パワハラ、そして社費の濫用についての対処は「下手な」大物政治家の影響を受け、話の焦点をずらし、そして視線で押さえつけようとするなど、真摯な対応からはほど遠い。対して生え抜きには問題もあるが、番組をよりよく使用とする姿を描いている。

 一見華やかなテレビ局、それも視聴率三冠王を狙おうとするキー局だが、その中身がどのようなものかを容赦なくえぐり出している。コネや権力者に取り入って自分の意を通そうとする「実力のない」社員。テレビ番組を利用しようとするキャスターやコメンテーター。そして自分の意を通そうとする巨大な力を持った広告代理店。社内構造も含めて容赦のない描き方で、これでは作者は退社を決意しなければ、本作品を世に出すことはできないだろう(笑)。

 主人公の小林昭介はそんな中、華やかさとは対極の地味な役回りもこなしながら番組を自分の理想に近づけていく。言うことを聞かない部下の管理。上司や外部プロダクションからの横槍。自薦他薦が渦巻く次期キャスター候補に対しての選択など。華やかな世界だが、結局は「社内政治」を1つ1つ対処するのが部長の仕事というのが良くわかる内容となっている。そんな中でもちゃっかりと浮気をしているのはテレビ業界の「あるある」なのだろうか。

 小林が理想とする番組に近づいたところで、「視聴率捜査事件」が起きる。現実には2003年に「日本テレビ視聴率買収事件」が発生している。バラエティー番組プロデューサーの意向でビデオリサーチの自動車を尾行して同社のモニター世帯を割り出し、謝礼を渡してモニターに視聴を依頼した。テレビ業界を揺るがす事件と言われたが、現実は本作品と同様、経営陣は責任を取っていない。主人公は会社に見切りをつけて別の道を歩む。作者も同様と思われるが、テレビ業界がここから変わったとは思えない。

 

ja.wikipedia.org