小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

9 ライバル 安土 敏 (1999)

【あらすじ】

 高度経済成長を目前に控えた1960年、「学校秀才」だった御堂信太郎は、海外勤務も夢だったために総合商社の国際交易を就職先に選んだ。大量採用された時代、同期には同じ大学で、六大学のエースをして名を馳せた池上唯史がいた。新入社員の研修から親交を深めた2人だったが、1人の女性を争うようになり、そして部長、役員と出世する度にライバルとして意識するようになっていく。

 時は流れて1997年、専務となった御堂は常務の池上と時期社長候補として争う立場になる。そこへ御堂の妻が、そして池上が相次いでガンが発病し、御堂は自分の人生を見つめ直すことになる。

 

【感想】

 巨大商社の出世レースを軸に、同期2人を描いた小説として、咲村観も同じ題名「ライバル」がある。先に1982年に上梓された咲村作品は、課長から部長、そして役員から常務へと同期が5人から2人に絞られて、最終的に1人に絞られるかを油田開発と穀物輸入という当時商社としての柱だった事業を通じて描かれていた。家族とのふれあいもあるが、業務内容の描き方がリアルであったことを覚えている。

 

  

*(Amazonより)こちらも名作でしたが、先に紹介した「商戦」とかぶっているので、今回はこちらを取り上げました。

 

 本作品は作者安土敏のフィールドである、商社が新規事業として立ち上げたスーパーマーケットを舞台としている。流通業界で策謀に巻き込まれる姿を背景に、主人公御堂とその妻の賢美(さとみ)の関係を中心として描かれている。新入社員の頃に同期の池上と争った女性・律子は明らかに御堂に愛情を抱いていたが、海外出張での夜遊びが原因で病気の疑いがあり、律子との大事な夜に彼女の期待を裏切ってしまう。そしてその病気を相談した同期の池上と結婚してしまい、御堂は池上が情報をリークしたのではないかと長年疑うことになる。

 律子への未練が断ちきれないまま見合いをして結婚した賢美は、その奔放な言動と家事全般が全く苦手な性格に持て余し気味となる。1度は浮気もして、二重生活のため借金が膨らんでしまい一時は絶望するが、浮気相手から自然に手を引いてくれたために何とか好転する。以降は妻との会話を楽しむようにもなり、年月は2人をかけがえのないパートナーとしての関係を作り上げることになった・・・・ちょっと都合がいい展開

 そんな妻がガンに冒される。心配で普段とは違った心境の中で出資する子会社のスーパーマーケットを手に入れようと目論む流通業界の有名人の1人は、御堂と会食することで親会社の商社も合併に同意したとの記事を作り上げて御堂を罠にはめる。普段はそんな罠に嵌まらない御堂だが、心の隙が生じて会食時やその後の対応の「ツメ」を誤る。ちなみにこの「謀略」は現実の話と作者は言う

 そんなことが重なり、今までは社長になるために汲々としていた御堂は、社長への野望がなくなり心底妻との残された時間を大切に思うようになる。そうなると今まで疑問に思わなかった経営の「アラ」が見えてくる。それまでならば「敵をつくる」仕事は社長昇進を妨げることになり避けていたが、会社を辞める決意を持った時、例え敵が増えて追い落としに図ろうとも、そして社長と対立しても専務の立場として推し進める。

 そして同時にライバルだった池上もガンに冒されていることを知る。そこで律子の現在の姿、そして結婚してからの律子の様子を知ることになる。最後に池上の御堂への思いを社長から知る。ライバルという言葉では語り尽くせない2人の関係。そして社長の思いは御堂の想像を超えるものだった

 作者はライバルを従来の「商社冬の時代」を象徴とさせる資材業種を扱い、作者を投影させている主人公の御堂は、「冬の時代」から脱出する手がかりの1つである、新規事業への投資部門を担当とさせている。作者自身が商社から新規事業に進出して破綻寸前になったスーパーに出向した作者としては、語りたいことはもっとあっただろうに、主人公と妻の関係に多くの紙面を割かれた本作品。

 その理由はあとがきの最後に、大切に記されている

 

nmukkun.hatenablog.com

*作者安土敏の「本職」を描いた作品です。