小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

3 小説 スーパーマーケット 安土 敏  (1984)

【あらすじ】

 一流銀行でエリートとして活躍していた香嶋良介は、従兄からの誘いに応じて地方都市のスーパーマーケット石栄(いしえい)ストアに転職を決意する。

 販売促進部長の座に就くも、スーパー業界ではまったくの素人である香嶋は、業界では有名で視察者も多いスーパー万来の亀山社長を招いてアドバイスを乞うた。店内を見て回った亀山は、一目見ただけで衣料品の不良在庫と食肉部門の不正を指摘する。そこから香嶋はスーパーの改革に着手する。

 香嶋は、内部の派閥争いや大手企業による買収のうわさなどに振り回されながらも、不正の実態を暴いていく。また、生鮮食品売り場の改革を図る香嶋のリーダーシップの下、次第に従業員も香嶋の情熱に動かされて協力する輪が広がっていき、売り場にも活気があふれる。

 

【感想】

 東京大学法学部を卒業してから住友商事に入社して活躍した荒井伸也は、1970年、33歳で住友商事アメリカのスーパーと合弁で設立したスーパー「サミット」に出向する。但し当時開業後7年を経過していたが、売上不振で倒産してもおかしくない状況だったという。

 そこから荒井は問題点を1つ1つ洗い出して解決しようとしていく。時代はまだ品不足の影響が残っていた時代。安い商品ならば多少傷物でも「混ぜれば」又は「翌日惣菜やお弁当に混ぜて」売れば大丈夫と思われていた。そこに精肉や魚などの各売り場でベテランの職人が幅を利かせていて、従来はアンタッチャブルな存在だったために、不正のし放題だった様子である。

  

 *安土敏こと荒井伸也(日刊ゲンダイデジタルより)

 

 小説では不正の実態を、スーパー万来の亀山社長は視察して一目で見抜く。そして「どのように商品棚が輝いて見えるか」を説いていく。今までよくあった、食肉をよく見せるために赤いランプで色を「誤魔化していた」ような売り方を改め、当時主流だった量販の考えから「質」を提供する意識を持ち、各売り場に改革を及ぼしていく。

 今ではあたり前の割引シール。傷ものや不揃いにシールを貼るとその商品が売れていく。それだけではなく、残された商品が均一になり、食品棚が「輝いていく」。見た目ですぐわかる効果のため従業員への波及力は大きく、どのようにシールを貼れば効果的か、従業員で勉強会が始まる。そして保鮮庫や蘇生庫、そして冷蔵庫などの在庫管理にも力を入れて、常に鮮度を保った品物を置き、鮮度が落ちたら妥協せず廃棄処分にして、「一定の質」を貫くことに注力し、それが周囲との差別化になっていく。

 不良在庫と高級肉の横流しといった不正の問題は、不正に巻き込まれた従業員が自ら命を絶ったことから全貌が明らかになる。鮮魚売り場も、ベテランの見栄で行っていた高級魚の「無駄」な仕入れなどを止めさせていく。大きな犠牲も生じ、またベテランとの軋轢を生みながらも、1つ1つ香嶋は問題を解消していって、従業員の意識も変わり、そして食品棚の「輝き」も変わっていく。

 小説では数年後、香嶋と従業員の努力で石栄ストアの経営は好転するが、そのタイミングで社長の石狩栄太郎は大手スーパーへの売却を決めてしまい、香嶋の「夢」は一旦潰える。

 実際にはスーパーサミットは現在首都圏を中心に100店舗を超える陣容となり、質に対する信頼は高い。荒井伸也は1981年、安土敏のペンネームで本作品を発刊したが、内容がサミット内部の出来事を重なり、ペンネームで描いても周囲からは「バレバレ」だった様子(^^) その後専務、副社長と出世し、1994年から2001年は社長として経営にあたる。そして社長在任時の1996年、本作品を原作とした「スーパーの女」が伊丹十三作品として製作され、スーパーサミットは上映の舞台となり、荒井は映画の制作アドバイザーも務めた。

 全くの素人で学ぶ立場だったものが、いつの間にか学ばれる立場に変わっていた