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【あらすじ】
父の会社の倒産、母の病死を乗り越え、幼い頃からの夢だった「社長」になるため、渡邉美樹は不屈の闘志で資金を集め、弱冠24歳にして外食系ビジネスを起ち上げる。
順調に軌道に乗ったかに見えたが、問題は次々を舞い込み、それを1つ1つ情熱と努力で解決していく。そして「ワタミフードサービス」は、ついに株式公開に向けて動き出す。しかしFCの業績悪化と大企業の資本の論理が、渡邉に襲いかかる。
【感想】
「ワタミフードサービス」の創業者、渡邉美樹の半生記。小学校の卒業文集で「社長になる」と決意した渡邉は、大学入学から社長になることを目標に絞った人生を歩む。経理事務を学び、資金を集めるために高額だが過酷な労働(佐川急便のアルバイト)を1年間耐え抜く。最初は大学卒で「馬鹿にされた」周囲からも根性を認められて、勤務の延長を求められるも夢のために頑なに拒否。そして飲食業を学び「つぼ八」のフランチャイズとして、念願の会社設立を成し遂げる。
お好み焼き屋から始めた創業は、次第に広がってついに居酒屋「和民」を全国チェーンまで成長させる。その過程で様々な困難に対して学生時代の友達などに声をかけて協力してもらい、そして盛り上げていく様子は、戦国武将の北条早雲が「国盗り」をした際、昔からの仲間を大切にして協力しながら、領地経営や支配地の拡大を図った故事を思い出す。
*渡邉美樹氏(Facebookより)
ちょうど「和民」が発展した時期は、日本産業界の端境期とも思える時期。戦後成長した企業が大きくなり、新規参入が困難な状況に見える一方、IT革命前夜で、強烈な産業構造の変化が目前に迫る。一皮めくれば、新興企業が想像を超える急成長を遂げ、旧勢力を駆逐する勢いを持つ、そんな時代が待っていた。
居酒屋業界も、先行した「養老の滝」や「つぼ八」などが全国チェーンに成長して、新規参入は困難と普通は思う。そこを執念とも言える情熱で風穴を開けて、先行他社を上回る規模にまで成長していく姿は、同時代でもこのような人物がいるのかと思うほど。日本産業界が黎明期であった明治時代や、戦後の混乱期にあった時代ではない「平成の奇跡」。
また成長物語は単純な「イケイケどんどん」ではなく、不採算部門が「損切り」を覚悟してでも撤退する勇気も持っている。特に資本が少ない、「なけなしのお金をはたいて」つぎ込んだ事業から撤退するのは、言葉では簡単だがなかなか決断はできない。経営者にはつきものの「非常の決断」を、勇気を持って断行するのは、「青年」ではなく「社長」の決意を胸に刻み込んでいるからだろう。
先に北条早雲の故事を書いたが、主人公の渡邉美樹が「社長」になることを決意して、それを実行に移すために取った行動は、J・F・ケネディが大統領になるためにはどのような行動をとったらいいかを、若い頃から考えて実行したエピソードとも重なる。「何をやりたい」ではなく「社長になりたい」から発想することは、周囲から見れば本末転倒のようにも思えるが、本作品を読むと、誰よりも明確なビジョンを持っている感じてしまう。その情熱があり、それを続けることができれば「道は開かれる」。
本作品から約10年後、「新・青年社長」が上梓される。全国チェーン成長後の多角経営や海外進出を描いたものだが、その後2011年には東京都知事選に無所属で出馬。そして2013年には参議院選挙に自民党の比例区公認候補として出馬するも、政界では力を発揮することなく、1期6年で政界から引退する。
2008年にワタミの従業員が過労で自殺、その対応からも「ブラック企業」として認知されてしまった。逆風が続いているが、若くして成功して、まだ60代と経済界では「青年」。ワタミに復帰してからの巻き返しに期待したい。
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