小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

11 ミレニアム 永井 するみ (1999)

【あらすじ】

 エターナル・ソフトハウス社に勤務している真野馨は、コンピュータの「西暦2000年問題」の対策に追われて、土日もなくフル回転の毎日を続けていた。そしてプロジェクトチームを率いて、自宅に帰る間もなく働いている久武康介と、つかの間の逢瀬を重ねていた。

 そんな中、馨が出勤すると、久武が自分の机で体を伏せて殺害されている姿を発見する。凶器は久武が大切にしていたノート型パソコン。馨は仕事に追われながらも、上司の木内昭二や久武の妻厚子から事情を聞いて、久武の死の真相を探ろうとする。

 

【感想】

 最初のコンピュータは、真空管を「ビル2つ分」必要としたほどであり、その後もコンピュータの黎明期はメモリを節約して計算を極力単純にする必要があった。そのため年号も本来は「19XX」年と4桁で表記すべきところを、下2桁の「XX」のみに省略するプロブラミングが進められる。1度このようなプログラミングを行うと、その後からは、下2桁の記入から抜本的に変更する「手間」と「効率」を考えて、しばらくそのまま続いてしまう。そしてプログラムを補正するシステムも将来できるだろうと楽観的に考えられていたが、そうはならなかった。

 そして西暦2000年になると、「00」を1900年と認識して、コンピュータが誤作動をするのではないかという推測がされた。そのためコンピュータのソフトウェアや保守管理を行う会社は引っ張りだこで、大企業から中小企業に至るまで、ソフトウェアの書き換えで大騒ぎになる。また消費税の導入や、閏日(2月29日)、そして昭和から平成への改元など「黎明期」のコンピュータ産業は、ある意味労働集約型での対応を余儀なくされた

 作家の永井するみはミステリーでデビューしたが、日本IBMやアップルで勤務した経験もあり、コンピュータ言語のCOBOLを利用したプログラミングの補正などを、かなり専門的に突っ込んだ描写も含めた作品を作り上げた。そしてその対応を行うソフトウェア社に勤務する社員の奮闘ぶりにも密着する。とは言え、そんな中でも不倫があり殺人事件がありで、経済小説としては純度が低くなっているのはやむを得ない。

 

第1回新潮ミステリー倶楽部賞受賞した、作者の実質的なデビュー作

 

 また殺人事件としても、不倫した主人公とその「未亡人」との対立は、女性視線として緊張感がある。手掛かりは回りに回って、最後は自分の近辺に戻って事件が解決する。そして「未亡人」との最後の絡みも、ギリギリの状態でうまく収めている。

 殺人事件の動機は「経済小説」ならではと言えるが、ちょっと強引な感じも否定できない。できれば本作品は「2000年問題」に絞って、その問題に携わる人々を描く形で描いて欲しかった印象は残る。

 「西暦2000年問題」は、蓋を開ければ大きな問題は起こらずに済んだ。マスコミが騒ぎすぎた印象もあるが、日常的に浸透したコンピュータの中身が今ひとつ理解できない不気味さが、まだ一般に残っていた事情もあるだろう。

 そして1番は、問題を「発生させない」ために尽力した担当者たち。大きな問題もなく西暦2000年を迎えられたのは、本作品にも描かれているように、2~3年前から土日もなく働いていたエンジニアたちの尽力があったからだろう。政治も、企業も、そして警察も、問題を「起こさない」ために費やされる労力は並大抵ではない。

 問題が発生した時だけ非難するのは、片手落ちだろうと思う

 

*2010年、49歳で亡くなってしまった作者の最後の長編作品。