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【あらすじ】
バブル景気の最盛期には200万台を超えていた自動車のアメリカ輸出を、1994年にはアメリカの現地生産も含めて160万台に制限するようにアメリカから通告される。日本国内でもバブルは崩壊したため国内需要も減少して、自動車メーカー各社の経営は危機的状況に陥っていた。
東洋新聞記者高嶋哲夫は、日米自動車摩擦を連載する担当として、業界最大手・トヨオカ自動車副社長の宗像亮二や、ゼミの同級生で通産省自動車課長の増田芳信から取材をする。そこでトヨオカを軸とする業界再編の動きを掴む。
【感想】
以前取り上げた「覇者の驕り」から約10年経過した自動車業界を描く。そしてアメリカの「ビッグスリー」は、それまでの保護貿易を軸とした貿易摩擦交渉から、1985年プラザ合意で円高ドル安に誘導することで価格面から日本車と対抗しようと戦略を変更する。しかしデイビッド・ハルバースタムが本の最後に予言した通り、日本の自動車産業は工夫を重ねたため、「やはり」ビッグスリーは日本車を跳ね返すことができず、経営は更に悪化する。大規模なリストラや工場閉鎖などを行って、生き残るのに必死な状況になっていた。
但し日本でもバブル景気が1周し、バブル崩壊後の不景気で国内メーカーの経営が悪化していく。国内の需要は先細りして、乱立するメーカーでの競争は免れない。そんな中アメリカからも「非公式な」強い要求が通産省に入る。業界最大手トヨオカ自動車が第6位のメーカーと、通産省の口利きで吸収するのでは、「ガリバー」がますます強大になって、業界内競争が削がれてしまいかねない。そして記者の高嶋は、これはアメリカから、過剰生産をしてアメリカに輸出するのを防ごうとして、生産拠点そのものを減らす要求があったのではないかと睨む。
物語はここから展開する。トヨオカ自動車はアメリカとの合弁会社の設立によって貿易摩擦を回避し、かつ工場を中国に進出しようと目論む。「労働集約型」の自動車産業において更なるコストダウンを図り、現状の打開を図ろうとする。この中国進出は鉄鋼産業が「冷えた鋼塊」で描かれたように、需要が頭打ちになった産業が、技術供与を外国に行って売上の一部にする手法。これによって当座の収益は稼げるが、結局は将来の競争相手を育成してしまい、手痛い「しっぺ返し」が各産業界で繰り返されている。
現実には1990年代後半から、日本の自動車メーカーはバブル崩壊後の経営危機に独自で回避できなかった。マツダは米フォードから出資比率を引き上げて傘下に収めたほか、日産は仏ルノーが出資してカルロス・ゴーンが社長に派遣される。そして2000年、当時のダイムラー・クライスラー(現在の独ダイムラー)が三菱自動車に出資するなど、日本の完成車メーカーは相次いで欧米メーカーの傘下に入り、グローバルなグループが形成された。一時は「400万台クラブ」と呼ばれ自動車業界が生き残る条件と言われたが、10年後にはそのほとんどが破綻し、2008年のリーマンショックで決定的になる。
本作品では、通産省が業界再編によって、大手3社を中心とするグループで、シェアを「4・3・3体制」にしようと画策する話が出ている。当時シェア6割だった「トヨオカ」が飲むとは到底思えず、業界第2位の日産も、当時グループの1角で他社を吸収する余裕があるとは思えないが、そのような「行政指導」そのものが甚だ疑問。「官僚たちの夏」を通り過ぎて、戦前の海軍軍縮会議を思い出した。
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*アメリカからは悪名高き「行政指導」を、日本の側から描きました(原作:城山三郎)