小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

「鎌倉殿の13人」と「新世界より」

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」について前回投稿したのがおよそ半年前、源義経が亡くなるタイミングでした。このドラマについて、更なるコメントは野暮だと思っていましたが、先日11月7日の放送「夢のゆくえ」を見て、「続編」を取り上げたくなりました。

 

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 前回投稿した後、物語の前半を引っ張った源頼朝が亡くなり、阿野全成源頼家など、頼朝の弟や子が、坂東武者たちの思惑もあり、次々と葬られていきました。

 合わせて幕府の「宿老」たちも次々と政争に巻き込まれて、命を落としていきます。比企能員畠山重忠和田義盛。そして幕府創設の功労者である北条時政も引退に追いやります。

 彼らは一様に、早々に亡くなった上総広常(佐藤浩市)のように「上げて、落とす」。退場に至る数話前から「仕込み」、腹黒い人物は、人間だれしもが持つ善の、そして子供の面を見せて視聴者に寄せてから「落とす」。そして善人は悲劇のヒーローに仕立てあげてから、それぞれ劇的なフィナーレを迎えていきます。舞台脚本出身の三谷幸喜らしく、「アサシン」善児も含めて、脇役たちに次々とスポットライトを浴びせてから舞台を去ることで、常時盛り上がるように演出しています。

 

 歴史オタクを自称する三谷幸喜は、実際の「歴史イベント」に対しても、自らの「味付け」にこだわります。同じ素材を使っても、出てくる料理がまるで違うように見せて、「オタク」を満足させつつ、歴史が苦手な層も取り込もうとする意図を感じます。

 それは特に女性の描き方に表れています。時代劇にありがちな、オトコに寄りそう女性像でなく、自らの考えでモノを言い、そして行動する女性を描いています。どうしても「宮澤エマ」にしか見えない政子の妹実衣。最初は義時の妻になることを断った八重。北条時政を振り回したりく。影で腹黒い性格を見せる持つ義時の3番目の妻のえ。

 巴御前が夫、和田義盛のムチャ振りで見せた「鹿のモノマネ」は、三谷脚本以外では到底出てこない印象的なシーン。悲しい過去を抱える巴御前が、和田義盛と暮らすうちに違った一面を見せるようになり、退場するシーンでは、その心境に厚みを与えました。

   

 

 今回 (11月6日)の放送では、主人公の北条義時と、「鎌倉殿」源実朝プラス北条政子のタッグが決裂します。そしてその場面を盛り上げたのが、第1回放送でもBGMで使われた、大河ドラマでは珍しいドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」。

 生命力みなぎる国アメリカを表現しているかのような第4楽章は、朝廷と幕府を結び付けようとする将軍に対し、それは絶対に許されない坂東武者の「利権代表」である北条義時の「マグマ」を感じさせます。そして北条時政の「終焉」をシーンに繋げて、ここでは同じく「新世界より」の第2楽章(「家路」で日本でも親しまれている)をBGMに採用しました。

 チェコからアメリカに渡ったドヴォルザークが作曲した頃の19世紀は、「朝廷」のような古い伝統にしがみついているヨーロッパから独立して、新たな「幕府」を建てようとする、エネルギーに満ちたアメリカとも重なるように思えます。

 

 これから実朝暗殺から承久の乱へと、物語はクライマックスに向かって疾走します。実朝暗殺の黒幕と噂のある北条義時三浦義村のコンビに対して、北条政子と更なる決裂が予想されますが、「史実では」承久の乱でその弟を救うために、歴史に残る大演説を行います。果たしてこの演説の背景を、三谷史観はどうヒネるのか、個人的には興味津々です。

 前半の「白」から「真っ黒」に寄せて描かれる主人公の義時。天下平定には欠かせない、天下取りの功臣たちを粛清する役割を担わされた義時の苦渋を、そして兄宗時が告げた「坂東武者の世の頂点に、北条が立つ」思いを、どのように回収させるのか。三谷脚本が義時をここまで黒に「寄せて」いるのは、振り幅を考えているとしか思えません。

 義時の嫡男、北条太郎泰時。承久の乱では鎌倉軍の総大将として京に軍勢を進め、三代執権となり御成敗式目を制定し善政を敷いて、その後長く続く武家政権の礎を作った人物と言われています。義時は泰時に自分の「黒い部分」を決して触れさせず、父に反抗しても叱責はするが決して放逐せずに、次代へとつなげる布石を打っているように見えます。

 

 ・・・・結局、三谷幸喜の術中にハマっていますね。

 

   

 *実朝と泰時(画像は2枚とも、NHKのHPから)