小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

4 油断 堺屋 太一 (1972)

【あらすじ】

 突然、中東からの石油輸入が断たれた。エネルギー源の多くを石油に頼り、その石油のほとんどを輸入に頼る日本への影響は計り知れない・・・・

 現実の政府プロジェクトによる調査レポートの結果を踏まえて書かれた本作品は、日本のたどる道を生々しく描写してセンセーションを巻き起こした。現代も日本は石油のほぼ全量を輸入に頼っていて、その9割は中東の危険地域に依存している。欠乏の恐怖は依然として身近にある。

 

【感想】

 初読は子供の頃だが、その前にテレビでも放映されたのを覚えている。「油断」という単語がドラマの題名になるのが不思議で観たのだが、その内容は予想外の衝撃的なものだった。

 「油断」の由来は仏教の涅槃経にあり、その意味は「王が臣下に油を満たした鉢を持たせ、その油を一滴でもこぼしたら命を断つと命じた」とされている。その言葉からドラマは始まったと記憶しているが、「石油が断たれる」状況になると、日本はどうなるのかをシミュレーションした調査が衝撃的だったため、当時通産省の官僚だった堺屋太一が(匿名で)啓蒙のためにも小説化したもの。

 但し実際に第1次オイルショックが1973年に起きてしまい、余りにも本作品が危機意識を煽るとして、オイルショックが落ち着くまで出版を見送ったほどの内容。なお1973年には「日本沈没」が上梓されて、大ベストセラーとなり映画化もされた。同じ年に本作品も発刊されていたら、日本の将来に絶望したことだろう。

*近未来予言書「団塊の世代」 1976年に世紀末の日本を予言した本。

 

 内容は、日本への石油輸入が平常の3割になった場合の影響を調査した内容。調査結果は、200日続くと300万人と全国民財産の7割が失われる」というまさに驚愕すべきもの。ドラマで役者が「太平洋戦争の戦死者数と同じだ」とつぶやいている姿をまだ覚えている。

 そして(小説内で)現実に事件が発生する。中東で紛争が勃発したためホルムズ海峡が封鎖される。人々は買い占めに走り、企業活動の低下から株価暴落、企業倒産、物資の不足、インフレの進行など、最悪の事態が次々と現実のものになる。

 衝撃的だったのは、ガスの元栓閉め忘れによる事故が発生するリスクを承知しながらも、資源確保のために、ガス使用を時間制限にする決断をしなくてはならなかったこと。また環境保護のため、石油備蓄の施設建設に反対した議員が、このような状況になって「犯人」扱いにされて非難される世情の移り変わり。これは21世紀でも「事業仕分け」とその後の震災被害などで繰り返された光景である

 堺屋太一(本名池口小太郎)は、大阪出身で、「筋金入り」の地方分権論者。官僚時代は東京と大阪の「2眼レフ」構想で東京の1極集中化を是正しようと、大阪万国博覧会を企画・実施する。その後も大阪を中心として、「東京以外の」万博の企画運営に携わり、2025年開催予定の大阪万博でも顧問的な立場となった。大阪維新の会の応援団でもあり、安部政権で行われた成長戦略のブレーンだった。

 余りにも有名な「団塊の世代」の名付け親で、政治・経済・文化を「引っかき回した」世代の移り変わりを予測小説で著わし、「団塊の世代」、「世紀末の風景」、「団塊の秋」などの作品を連ねている。また高度成長期を象徴した「巨人・大鵬・卵焼き」も堺屋の言葉とされている。個人的には日米摩擦を予測した「ひび割れた虹」とポスト工業世界を描いた「知価革命」が印象に残る。

 2019年死去、享年83才。稀代のアイディアマンだった。

*近未来予言書「平成三十年」 平成十年に発刊された内容は、今から見るとまた味わい深い。