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【あらすじ】
タイガー自動車の課長、朝比奈豊は、同期で親友の柴山が事故死したため、その後任になることになったが、その仕事は産業スパイだった。柴山が事故死する直前は、タイガー自動車の新車のデザインが盗まれ、踏切事故を起こして欠陥車と告発をされていた。これらが何物かの工作ではないかと調べていた矢先の事故死だった。そして一連の事件を探ると、ライバルの不二自動車の影が見え隠れしていた。
【感想】
経済小説の古典的傑作。そして企業を舞台として見事な産業スパイ小説にもなっている。当時トヨタと日産に規模の差は余りなく、苛烈な競争を繰り広げられていた自動車業界の裏側を暴く。本作品は、まだリコールやコンプライアンスという言葉がない時代だが、現代にも通じるテーマが含まれている。
本作品は新型車の性能や装備などを事前に掴もうとするスパイ活動を詳細に描いている。それまで全く産業スパイなど全く縁が無かった主人公の朝比奈が、急死した同期の柴山の後任で産業スパイに従事することになる。取引会社の買収、相手先秘書のハニートラップ、密告、怪文書、ゴミを漁っての資料集めや、興信所、業界紙を通じての情報収集や煽動など、余りにも赤裸々に描いている。新車の第一号を販売前にライバルメーカーが購入して、解体して調べた話は当時としては斬新だった。また読心術を習得した人物を確保して、会議を隣のビルから盗聴するシーンは、昔プロ野球で疑われたサイン盗みを思いだす。
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*作者梶山季之は、こんな形で取り上げられたこともあります。
内容はミステリー的な要素を含んでいる。敵と味方がはっきりしていると思われる経済小説だが、敵の敵は味方になり、味方の中に敵がいたりと人物関係が入り乱れていく。主人公の朝比奈は、情報を漏らしたと思われる人物を更迭させて、ハニートラップによって情報を収集、偽の情報を流して相手の反応を見るなど、それまでスパイの素人とは思えない「活躍」を演じることになる。
そして親友の柴山の死にも疑問が生じていく。相手が売り出す新車の価格を探り当てて、自社でその価格を下回る値で販売して注目を浴びることに成功する。そして社内でのスパイも発見して朝比奈は勝利を手にすると思われたが、最後はミステリー的などんでん返しが待っている。45才で早逝するまで多くのジャンルで大量の作品を上梓し続けた梶山季之。経済小説もただではおわらせていない。
ここまでやるのか、と問われて「現実はこれ以上」と答えた梶山。その後の現実が、本作品がただの「作り物」ではないことを裏付けていく。
1983年に当時グローバルスタンダードだったIBMの最新型コンピューターの機密情報を盗もうとして三菱電機及び日立制作所の社員6人が逮捕される。業種は違うが、20年後に起きた事件を予見した(もしくは続いていた?)と感じる。
冒頭で紹介された、新車が踏み切りでエンジンが動かなくなって事故を起こした事件は、運転手が派手に騒ぎ立てて騒動に繋がる。この事件は2009年にアメリカで起きた大規模なリコール運動の渦中で起きたプリウスのブレーキ不合いを「便乗的に」訴えた事件を連想する。リコールの騒動は大々的に報道されたため、アメリカトヨタの売上は一時期約半分に低迷した。また三菱自動車のリコール及びクレーム隠しは、発覚後会社の存続危機に陥るまでの影響を受けている。落とし穴はどこにでもあり、対応を間違えれば企業そのもののダメージは図り切れない。
なおライバル社の欠陥を「仕込む」作品は、航空機メーカーから戦闘機機種選定のライバル機を狙撃して自社の優位性を企てようとする、ゴルゴ13の「陽気なスナイパー」(1978年)を連想した。
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*映像化は当初、主人公を田宮二郎が演じました。