小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

19 乱気流 高杉良 (新聞:2004)

 昨日は愚痴のような投稿に、多くの激励と「元気」をいただき、ありがとうございました! 

 これからも地道に続けて行きたいと思っています。

 

【あらすじ】

 亀田光治郞社長によるワンマン体制が敷かれ、東京経済産業新聞社の経営は混迷していた。裏金作りを目論んだ結果、子会社の融通手形流出という経済専門誌の企業にあるまじき事態も発生した。それでも架空発注で手形を乱発し裏金作りにあてていたのだ。バブル経済崩壊後の日本経済界に起こる事件を数々物にしてきた敏腕記者たち。ジャーナリストとしての矜持を支えに、私利私欲にまみれた経営陣に対して、報道の倫理と真実を求めて、闘いを行う。

 

【感想】

 日本経済新聞はノンフィクションの名作「メディアの興亡」で、コンピューターの普及度、信頼性がまだ乏しい中、他社に先駆けていち早く活字出版のデジタル化に取り組んだ企業として描かれている。そして新聞記事や記事にならなかった情報を「データ化」して、コストをかけて収集した情報を紙面1回きりに限らず二回、三回と「回して」利用することを試みるなど、先進的なメディア戦略にも取り組んでいた(そのため、当時日経の新聞記者は「ジャーナリスト」として見られない面もあったらしいが・・・・)。そして政治から経済の時代に移り、1980年代になると日本経済新聞は部数を伸ばし、バブルを助長した、とさえ言われるほどの影響力を持つようになった。

   鶴田卓彦氏(日本経済新聞より)

 

 そんな日経新聞が躍進した時代の象徴と言えるのが鶴田卓彦社長。主流である経済部長を経験する一方、新聞のデジタル化、カラー化などにも努め、快進撃の立役者として1993年社長就任する。それから10年間社長に君臨するが、2003年に子会社の融通手形により日本経済新聞は、約100億の損害を被る(写真といい行動といい、日大の元理事長とカブる)。また特定のクラブに足繁く通い、高額な会社の接待費を「落とし」続けたことで会社を損害させたとして、社員から株主総会で解任動議が出されるに至る。

 本来ならば、関連会社の融通手形が流出された時点で経営責任を取るべきと思われるが、解任動議を出した「スクープ記者」を懲戒解雇処分にして泥沼の法廷闘争に突入するなど、それこそ「ジャーナリスト」とは思えない騒動になってしまった。ちなみに高杉良も、本作品が原因で日本経済新聞から名誉毀損で訴えられている(仮名の作品だけど・・・・)。

 本作品は1991年にバブルが崩壊してから、イトマン事件や総会屋などへの利益供与事件、道路公団の贈収賄事件や料亭への巨額融資事件などの経済事件を点描として描いている。そしてその期間に「亀田光治郞」社長が権力を掌握していき、それにより経営陣もイエスマンばかりになる。そうして経営がどんどんと歪んでいく様子を、「スクープ記者」の同期である倉本和繁の目から通して描いている。新聞社といえば反骨精神旺盛な人物ばかりいるため、経営を壟断することなどないと思っていたが、よくよく考えてみれば、他のメディア(敢えて名は伏す)でもよくあること。

 バブル崩壊後の取材合戦の中で「スクープ記者」と主人公の倉本が活躍する。経済事件の描写はやや冗長に思えるが、取材に関わった敏腕記者たちが経営刷新を求めて立ち上がる場面では、ジャーナリストの矜持を最後まで持ち続ける姿と、「経営者」側とのコントラストが通常の企業小説よりも際だっている。

 鶴田卓彦社長は、株主総会での解任動議などを機に、解任動議を理由とせずに会長に退き、2ヶ月後には相談役に退き、翌年退任する。但しその後横綱審議委員長を努めるなど、「公職」も続けていていた

 高杉良が本作品で描いた、「産業銀行」常務が贈収賄事件で逮捕された時の描写は、報じる新聞社側に厳しく、産業銀行側に温かい目を向けている。これは「小説日本興業銀行」で、昭電疑獄に巻き込まれた興銀マンを描いた描写に重なる。元々高杉良石油化学新聞の編集長経験者。その業界の「親玉」に対しては、ジャーナリスト出身者として厳しい目で見ざるを得ない心境だったことだろう。

*こちらでは、日本経済新聞は先進的な企業として取り上げられていました。