小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 石の繭(警視庁捜査一課11係シリーズ) 麻見 和史(2011~)

【あらすじ】

 如月塔子は亡き父の遺志を汲んで警察に就職した、警視庁捜査一課に勤務する新米の女刑事。ある日ビルの地下で、肩から下をモルタルで固められた男性の遺体が発見される。翌朝、捜査本部に犯人を名乗る男から電話がかかってきて、塔子が話し相手をすることになる。

 〈トレミー〉と名乗るその男は、警察を愚弄・挑発する。捜査を続ける塔子らは、元中華料理店の調理場で、頭部をモルタルに沈めた遺体を発見する。〈トレミー〉はその後もたびたび捜査本部に電話をかけてきて、殺人に関する情報を提示しながら捜査本部に揺さぶりをかけ続ける。

 

【感想】

 如月塔子。小柄で童顔。巡査部長。誕生日は2月9日。「塔子」という名前は、出産予定日が10日だったことに由来として、自らネタにする。女性ならではの違った角度から事件や人間を見てチームの方針に影響を与えるが、自分では新米でもあり、ちょっとおどおどしながらも懸命にチームの中で捜査に取り組んでいく。主人公の設定や捜査手法、そして途中に整理したメモを作成して捜査陣と読者に情報を共有させる手法は、ジェフリー・ディーヴァーの「リンカーン・ライムシリーズ」及び女性刑事のサックスを連想させる。

 そしてリンカーン・ライムに相当するチームの頭脳を担う鷹野秀昭は、刑事部長肝いりの「女性捜査員に対する特別養成プログラム」により抜擢された塔子を指導する役割を担っている。優秀な捜査官で数々の実績を挙げる一方、100円ショップが趣味で、事件現場を何十枚も写真を撮って、後の捜査方法や推理に役立てる。

 他にもIT系に強い若い尾留川圭介、観察力が鋭いベテランの徳重英次、強引な手法の門脇仁志などが、係長の早瀬泰之に率いられて、「捜査イレブン(十一係)」として難事件に立ち向かう。

WOWOWのドラマは、原作の世界観を壊さず、また木村文乃さんも熱演でした。

 

 作者自身が語るように、本シリーズは警察小説と推理小説の融合を目指したシリーズで、捜査を描くことはもちろんだが、事件の謎や犯人も推理小説のような構成にトライしており、読み応えも充分。本作品も、塔子の父が追っていた未解決事件を絡ませながら、犯人が警察に挑発をしてヒントを出し、捜査陣がそれに翻弄されながらも事件を追いかけ、最後に意外な落とし穴を設けている。

 また主人公の塔子を新米に設定にしたため、初登場の本作品では正義感が空回りしている。父の遺志をついで警察官になり、また特別養成プログラムに選抜されたことが重荷となり、危なっかしい面も見せる。このままで大丈夫なのかと思わせるが、父や家族の絆も通して、シリーズを通して次第に刑事として成長していく物語となっている

 そして皆が経験を積み自らの役割を果たして、チーム全体が「最強のイレブン」と言われるように成長する。その中でも存在感を発揮していく塔子の成長をシリーズで見続けることになる。まさに日本版「リンカーン・ライムシリーズ」となっている。

 このシリーズを読んだとき、これは是非映像化して欲しいと思った(作者の元々そのような意図もあったよう)。木村文乃主演でテレビドラマ化されたのを見て、これだけ原作のテイストを壊さないテレビドラマは珍しいと感動(地上波でなくWOWOWだからか?)。それに引き換え、同じ作者が原作の「警視庁文書捜査官」ときたら・・・(WOWOWでなく地上波だからか?)

*こちらのドラマは波瑠さんが主演でしたが、個人的には残念でした。

 

警視庁捜査一課11係シリーズ

 水晶の鼓動(2012)民家で、全てがラッカーで真っ赤に染められた事件が発生する。

 虚空の糸(2013) 刺殺された遺体が団地で発見、その直後、犯人が特捜本部を脅迫してくる。

 聖者の凶数(2013) アパートでひどく損壊され、27の数字が刻まれたた遺体が見つかる。

 女神の骨格(2014) 火災が発生した洋館で白骨遺体が見つかるが、頭部は男、胴部は女だった。

 蝶の力学(2015) 資産家の男性が殺害され、妻が誘拐される。遺体には装飾が施されていた。

 雨色の仔羊(2016) 血でSOSと書かれたタオルが見つかる。事件には小学生の子が関わっていた。

 奈落の偶像(2017)銀座のショーウィンドーで、男性の遺体が首を吊った状態で発見される。

 鷹の砦(2017) 殺人事件の捜査中に立てこもり事件が発生、犯人は塔子を人質にとって逃走する。

 凪の残響(2018)江東区のショッピングセンター2店で、指が2本ずつ、計4本遺棄される。

 天空の鏡(2019)解体予定の商業施設で、左の眼球が奪われた他殺体が発見される。

 賢者の棘(2020)如月家に長年届いていた父への脅迫状。父が死んで一般市民を殺すと記してある。

*こちらのシリーズは続編、続々編とWOWOWでドラマ化されました。