小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

【コラム】職業を選択するということ

1 タイトルで炎上

 「就活の教科書」と呼ばれている就職学生に人気のサイトで、「底辺の仕事ランキング」とタイトルを銘打ち、12の職業をピックアップして「炎上」しました。その職業をここでは記しませんが、それらの特徴として「肉体労働」や「誰にでもできる仕事」、そして「同じことの繰り返しであることが多い」。デメリットとして「年収が低い」「結婚のときに苦労する」「体力を消耗する」を挙げたほか、「底辺職に就かない方法/抜け出す方法4つ」などの項目もあったそうです。

 テレビで取り上げられたのが1週間ほど前で、既にサイトからは記事が削除されています。そもそもこの記事がサイトに掲載されたのが昨年5月というので、今さら取り上げるのもどうかなと思ったのですが、「コメンテーター」が週末にいろいろと言っているのを聞いて、「ちょっとこれは」と思い、今回取り上げます。

  



2 記事の実際の内容は?

 まず運営会社がこのタイトルで掲載したのは、単純に注目を受けたいがためでしょう。就活生の目に留まり、その上で記事も読んでもらうようにする。そのためには「炎上」覚悟のタイトルを決める。これはネットニュ一スやYouTubeなどでよくある話です。

 実際にこの記事のタイトルは刺激的で、一線を踏み外したのは事実ですが、

 「一般的に底辺職と呼ばれている仕事は、社会を下から支えている仕事」

 「そのような方がいるからこそ、今の自分があるのだということには気づきましょう」

 「社会にとって必要な仕事」など、一定の配慮を思わせる記述があったそうです。

 それはそれで、人によっては参考になるかと思います。実際に以前はこのような仕事を、「3K」という言葉でまとめたこともありました。

   



3 会社で仕事をするということ

 会社というのは、実際に働いてみないとその実態はわかりませんし、就職したらブラツク企業だと判明したとか、すぐに衰退企業や斜陽産業になった話は枚挙にいとまがありません。その中にはかつて「人気企業ランキング」で上位に挙げられた企業も数多くあります。人気ランキングも10年、20年でガラリと変わる場合があり、学生が決める進路の大半は運、不運に左右されることは否めません。反対に今回取り上げられた職種の中には、ITや機械などの代替えが困難で、今後も安定した需要が見込まれる業種がたくさんあると思います。

 人気が高いと思われる「誰にでもできない」、「年収が高い」仕事というのは、一般人とは隔絶した能力が求められ、競争にさらされ、そして日々ストレスを抱えなければなりません。果たして運営会社は新卒生に対して、そこまで考えて職業を、そして会社を紹介しているのかと考えれば、はなはだ疑問です。そもそも一般的な新卒者が、社会人になって直ぐに、付加価値を産み出す仕事ができるわけありません。

 但し、私が思う今回の「問題の本質」は、その点ではありません

   



4 問題の本質

 残念ながら日本では古代から、職業によって人を長年差別してきたという、世界でも類のない歴史を持っています。その理由の1つとして、平安時代の貴族たちが「不浄」と思われるものを遠ざけていった結果、「例え自らが必要とするものに対しても」、職業に対して「貴賤」を峻別したことです。そしてその職業に対して、それこそ現代に至るまでその差別は続きました。

 現在はその風潮は薄まったように思えますが、差別を乗り越えるには、まずその構造を理解した上で、差別する原因がおかしなものだと認識することが必要で、決してそこから目を背けて、覆い隠して、話題にしないことではないと考えます

  日本で「職業」を論じることを生業とするならば、このような日本が抱える問題をきちんと踏まえ、正面から見据えた上でその業務を行うべきであり、そうしているならば決して今回のような騒ぎは起きなかったはずです。しかし今回の運営会社はこの騒ぎで、図らずも「底の浅さを露呈」してしまいました。そして残念ながらその点を触れたコメントは今まで(少なくとも私は)聞かれず、個人的には非常に残念です。

 職業を選択する話に戻ります。昔「料理の鉄人」で和の鉄人・道場六三郎は、小学校を卒業後に、近所の旅館に勤めて包丁を握ることになりますが、その時は毎日がどうしたら上手に、早く食材を切ることができるのかを考えると止まらなくなり、そこからどんどんと成長したと聞きます。

 一般的に仕事は実際にその中に入らないとわかりません。道場六三郎と比べるのは極端ですが、大抵の仕事には自分なりのエ夫の余地は存在します。その中で自分の「思い入れ」を託すことができるかを、先輩などから感じることで会社や職業を選択し、そしてその中で仕事に励んで欲しいと望みます。

 そしてその後は、自分次第です。

    (画像:フジTV)