小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

15 ストロベリーナイト(姫川玲子シリーズ) 誉田 哲也 (2006~)

【あらすじ】

 水元公園内の池の近くにブルーシートで包まれた遺体が発見される。遺体には無数の傷があり、殺害された後に内臓まで穴があくほど腹部を切開されていた。その状況から捜査一課の姫川玲子係長は、遺体を運ぶ役と遺体を鎮める役が別人だったのではないかと推理する。

 池を捜索すると、推理通り更なる遺体が発見された。しかもその後、埼玉県の川から9体もの同じような遺体が発見される大事件に発展する。被害者の関係者を当たっていくうちに、姫川の部下大塚は、被害者の後輩から「ストロベリーナイト」という殺人ショーがあるという情報を得る。

 張り切る大塚は独断で捜査を進めるが、犯人側の情報に釣り出せれ、銃を撃たれて殺害されてしまう。

 

【感想】

 姫川玲子、本作品では29才。階級は警部補。捜査一課殺人犯捜査第十係(姫川班)主任。長身美麗。ブランド者を身にまとい、頭脳も明晰でノンキャリアながら、昇格試験を昇進が間に合わない勢いで次々と突破し、本庁捜査一課の係長に抜擢されている。

 天性のプロファイリング能力があり、いきなり頭の中で爆発するような回転で勘が働き、犯人の行動を見抜く。また17才の時に性的暴行を受けた過去があり、その時に接した警察官の印象から警察の奉職を志望した。

 部下は年上の男性もいるが、姫川に気があるため部下として仕える気持ちが強い。「凍える牙」の音道貴子から約10年。本庁捜査一課の係長の地位を持ち、部下がついて来られないほどの仕事人間で、男性を配下に従え捜査の指揮を行う。この10年で「女性の居場所」がはっきりした設定に変化した

 

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 そんな主人公の姫川だが、本作品では主人公のアイデンティティーを打ち壊すような事件を作者は仕組んだ。まず捜査一係長としての立場。部下を抱えるも、まずその部下が犯人に射殺される悲劇に襲われる。管理者として責任を感じる姫川。

 そして殺害された大塚の相棒である北見もまた特異。相棒が殺害されたことで同様に責任を感じているが、その北見は警察高官の息子で東大卒のキャリア組。出世が約束されているのに、本人の希望で今回現場の捜査に参加している設定。こんな腫れ物のような部下がいる中で、猟奇的な連続殺人事件の捜査をしなければならない姫川は、男女の区別なく大変な状況である。

 もう一つは姫川の過去に抱えたトラウマと対峙せざるを得ない事件の内容。真犯人「エフ」は薬物中毒の義父(実母の再婚相手)に性的虐待を受けていた。そのため自分が女であることを拒絶しつつ自分を傷つけ、ついには病院に収容されてしまう。

 また不良グループの女の子と仲良くなるが、その子は別のグループに強姦された挙句殺されてしまう。怒り狂った「エフ」は犯人グループを見つけ出し、その一人をカッターナイフで切り裂いて殺害してしまう。この殺害が連続殺人の端緒となるのだが、性的暴行を受けた過去がある姫川に対して、「エフ」の心情は影を落とす。

 但し「エフ」とは別に「ストロベリーナイト」という殺人ショーを主催した人物も存在する。その人物が判明する経緯、そして「エフ」と主催者が仲間割れをする原因などは、些細なことに見えるがとてもよく考え抜かれている。作者は非常に魅力的な主人公像とその配下の「姫川班」を作り上げたが、それはこの事件から全て逆算されて造形されているのがよくわかる。最後の最後まで、目が離せない。

 それにしてもテレビと映画で映像化された主人公を演じた竹内結子は、小説から飛び出したように素晴らしい演技だった(そしてミス・シャーロックの演技も抜群!)。非常に残念です。合掌。

 

*この画が、とても強く印象に残っています。

 

姫川玲子シリーズ

 ストロベリーナイト(2006) 本作品

 ソウルケイジ(2007) 血塗れの左手首が発見されるが、死体が見つからず翻弄される。

 シンメトリー(2008) 短編集。姫川玲子は刑事として、明けても暮れても捜査の毎日。

 インビジブルレイン(2009) 暴力団員が殺害されるが、上層部は過去の失態に隠蔽を図る。

 感染遊戯(2011) 姫川斑の3人が直面した事件の裏には、ある人物の復讐劇があった。

 ブルーマーダー(2012) 骨を粉々にする殺人事件が発生し、青いマスクへの恐怖に陥る。

 インデックス(2014) 短編集。ゴリ押しで本庁に復帰して再出発するエピソード集。

 ルージュ 硝子の太陽(2016) 地下アイドルらの惨殺事件は、迷宮入り事件と酷似していた。

 ノーマンズランド(2017) 女子大生殺害事件の裏には、北朝鮮に拉致された過去があった。

 オムニバス(2021) 短編集。前作「ノーマンズランド」の事件が解決に至るまでを描く。