小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

16 SRO 1(警視庁広域捜査専任特別調査室シリーズ) 富樫 倫太郎 (2009~)

【あらすじ】

 警視庁に広域捜査を専門に行う調査室、通称SROが新設される。その構成はわずか7人の小所帯にキャリア5人が終結する。その見かけとは裏腹に、送りこまれたメンバーは何かしらの問題を抱えるものばかり。

 またSROの存続を望まない者や、従来の管轄を荒らされると危惧する者、そしてメンバーにスパイも送り込まれて、発足早々空中分解寸前となるが、山根室長が前向きに事件に取り組み、部下たちも矛盾を抱えながらも事件に取り組んでいく。

 都市伝説化したシリアルキラー「ドクター」による大量殺人の影。事件の調査で出張したメンバーが忘れた重要を届けに行った女性事務員が行方不明になり、ドクターに拉致されたと知ったメンバーたちがその正体を推理し、結束して救出に向かう。

 

【感想】

 富樫倫太郎は先に「早雲の軍配者」を読んでいたので、なぜ歴史小説作家が「畑違い」の警察小説を書くのかと思いながら読んだ。組織の設定と登場人物の配置は特殊だが、その特殊性を生かし、また最凶の殺人者である近藤房子を生み出したことで見ごたえのあるシリーズとなった。SROの主要メンバーは以下の通り。

 山根新九郎。SRO室長、39歳。日本で唯一の広域捜査選任特別調査官で警視長。父親は元東京第一方面本部長。カリフォルニア大学で犯罪行動心理学を、FBIアカデミーでプロファイリングを学び、管轄に縛られない広域捜査を行う組織の必要性を提言しSROの室長に就任した。

 芝原麗子、SRO副室長。32歳で警視正。東大法学部卒。見た目は清楚な美人だが空手2段で非常に気が強い。新設されたSROの副室長のポストを得るために異例の若さで警視正に昇進した。SROの動きを知らせるよう命じられ盗聴器も仕掛けていたが、ドクター事件を機に翻意し、仕事に邁進している。

 尾形洋輔、42歳、警視正。東大法学部卒。マル暴の刑事かと思わせるほど人相が悪い。柔道3段。警視庁刑事部への異動が決まっていたが、裏金を私的流用した上司を殴り、SROへの異動となった。警察官としては優秀だが、他にも似たような暴力事件を起こしたことがあって出世が遅かった。

 針谷太一、30歳、警視。東大法学部卒。警察大学校を出てから警察庁へ入庁。3年前婦警を人質にしていた前科多数の男を射殺し、事件解決の手柄もあって捜査一課に異動したが、翌年通り魔事件に遭遇し、再度犯人を射殺。今後は擁護する者もなく、SROへ異動となる。通称は「ハリー」。

 川久保純一、26歳、警視。東大法学部卒。学生時代からの恋人へのストーカー行為で訴えられて埼玉県警に異動。SROのスパイをすれば警察庁に戻ると言われ、SROに異動する。

 富田直次郎。58歳。税理士資格あり。総務・会計担当で普段は存在感が薄いが、元総務部会計課で警視庁全体の予算を扱部署にいた。そのため警察の裏金には精通し、詳細に記録したブラックノートを所持しており、富田を飼い殺しにするためにSROを設立したという裏事情もある。

 

 シリーズの奇数巻はシリアルキラー近藤房子を描いている。登場の際は貞淑な妻を演じていたが、山根室長のプロファイリングによって正体が暴露される。その残酷性と非人間的な性格。そしてレクター博士を思わせる人間心理学により、人知れず事件を起こすと共に、捕まってからも脱獄を図る。

 近藤房子を含めた広域的犯罪を軸に、できる女・芝原麗子の実態が「片づけられない女」なこと、尾形の外面に対して内に抱える家族の問題、針谷の華麗な家族構成などメンバーにも話を広げ、それを人生経験の長い川久保が時に啓示的な発言をする歴史小説だけでなく、警察小説でも「生活安全課0係シリーズ」を続けているが、このシリーズも今後も続きそうである。

*「シリアルキラー」近藤房子は存在感が大きく、スピンオフも出ました。

 

SRO (警視庁広域捜査専任特別調査室シリーズ)

 SRO Ⅰ  警視庁広域捜査専任特別調査室(2009)

 SRO Ⅱ  死の天使(2011)

 SRO Ⅲ  キラークィーン(2011)

 SRO Ⅳ  黒い羊(2011)

 SRO Ⅴ  ボディーファーム(2013)

 SRO episode 0  房子という女(2014)

 SRO Ⅵ  四重人格(2015)

 SRO Ⅶ  ブラックナイト(2017)

 SRO Ⅷ  名前のない馬たち(2019)

    

  *テレビでは「できる女」芝原麗子は木村佳乃が演じました。