小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

9 警視庁心理捜査官(警視庁心理捜査官シリーズ) 黒崎 視音 (2000~)

【あらすじ】

 台東区蔵前の路地で、深夜に若い女性の死体が見つかる。乱暴されたあとに殺された状況に見える無残な姿だが、暗い路地に連れ込んで犯行を及んだことから、顔見知りの犯行に見られた。しかし心理捜査官である吉村爽子巡査部長は、独自に学んだ日本式のプロファイリングを駆使して、顔見知りの犯行ではない犯人像を進言する。

 過去の経験から顔見知りの犯行と信じて怨恨を動機とする「鑑取り」捜査に主力を置く捜査一課の面々。対して顔見知りではない犯行を考える爽子は、殺害当夜の被害者の足取りと目撃者の確保を優先して捜査すべきと考え、捜査方針が対立する。

 容疑者が浮かぶが爽子はその容疑者が真犯人とは思えない。その中で爽子の理解者である同じ捜査一課の柳原明日香は、公安部出身の経験を活かして捜査を進めながら爽子を見守る。

 

【感想】

 主人公の吉村爽子は27歳。身長は157センチと小柄で童顔で、捜査一課の「紀州犬ドーベルマンやシェパード」の猟犬に囲まれたヨークシャーテリアと自嘲する存在。そのため男性社会で生きていくには「武器」が必要になる。爽子は幼児期に受けたトラウマから心理学を学び続け、観察力も人一倍あったために独自のプロファイリングを身につけ捜査に活用する。そして実力が認められ、警視庁でただ一人の心理応用特別捜査官に指定された。

 とは言え警察はまだまだ完全な男社会。しかも本庁捜査一課は、経験も実績もある「刑事」たちの集まりで、その中にポツンといる爽子はまさにヨークシャーテリアの存在。元々非社交的であった爽子は自分の殻に閉じこもりながらも、心理捜査官としてはプロの責任で捜査を進めている。

 プロファイリングや心理学に関する知識を初めとする警察用語や犯罪の歴史などのウンチクは見事。中にはその専門的な用語の説明が長くなかなか物語に入り込めない読者もいるだろうが、特に当時の警察小説では出色の充実振り。物語がかなり長いが勉強にもなり、警察小説の入門書としてもおすすめ。

*続篇「KEEP OUT」Ⅰ・Ⅱでは、爽子は所轄に移り様々な経験をして成長します。

 

 そしてもう一人の重要な役割である柳原明日香は、30代で美貌を持つ準キャリア組で、公安部ではできる女として「女狐」と恐れられた警部。しかし公安部の権力闘争に巻き込まれ、自らを守るために公安幹部の真実を暴いて身の潔白を証明し、警察官としての地位は守ったが、愛着のあった公安部門にはいられなくなる。かつての上司からの誘いで警視庁捜査一課に配属になっていた明日香は、自らの過ちを繰り返さないためにも、爽子は心配であり、また可愛らしくもある存在。

 爽子は藤島という若い相棒と捜査を進めるが、自分の信念は曲げないために「昭和の刑事」たちの中でだんだんと心理的に追い詰められていく。そんな中で自分の考えを通すため、だんだんと自分を出しで、そして独自の捜査に突き進んでいく様子が、物語の中で徐々に表れてくる。そして最後には「鉄の規律」警察では許されない単独行動をして犯人に迫り、逆に犯人に拉致される失態を犯す。明日香が爽子に諭した言葉「女は感情に走ったら負けよ」が、そのまま当てはまってしまう。女性を主人公とした警察小説だが、女性としての活躍とともに失敗を描いた作品になっている。

 爽子は所轄に異動となり、ちょっとずつ「したたか」になりながらシリーズは続く。そして強烈な存在感を出した明日香も、スピンオフとしながらも独自のシリーズで主人公として描かれる。

 それにしても、そんな柳原明日香をテレビではなぜ泉ピン子が演じているのか。テレビの作品は見ていないから余り言えないが、原作を読んだ身としては、どこでどう結びついたのか理解できない。

*そして最新作では、逞しくなった爽子が明日香を支えて事件解決に尽力します。