小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14 謀略(警視庁追跡捜査係) 堂場 瞬一 (2010~)

【あらすじ】

 仕事帰りのOLが帰宅途上で殺害される事件が発生。捜査一課は通り魔殺人と見込んで捜査を進めたが、1か月後、ほぼ同じ場所で同様の殺人事件が発生し、連続殺人事件として捜査を進めるも、半年が経過し捜査本部は膠着状態となり、打開策として追跡捜査係の沖田と西川が再捜査に乗り出す。

 事件を調べるうちにいつもは冷静な西川が熱を帯び始め熱心に捜査を進める。そんな時大阪で別件逮捕された男が1件目の殺人を自供し、事態は一気に動き出す。

 

【感想】

 追跡捜査係。捜査に行き詰まった事件を別の視点から見直し、事件解決の糸口を見つける。手がかりが見つかったら、再び元の捜査担当に戻すが、捜査陣からは介入を露骨に嫌がる者も多く、「捜査一課の盲腸」という刑事もいる・・・・設定は「失踪係」と似ている。

 主人公は2人にしている。沖田大輝は捜査一課強行犯係から追跡捜査係に異動になったが、納得しておらず、いずれ強行犯係に戻りたいと思っている。がさつで強面、突っ走るタイプ。趣味が時計なのは作者譲りか。

 もう1人の主人公、西川大和は調書を読み込む能力は警視庁随一。記憶力と分析力を武器に捜査するが決して足を使わない主義。マイホーム主義で常に冷静沈着であることをモットーにしている。

 スポ根漫画に出て来る主人公とライバルのような設定(?)で、ある意味わかり易い。2人は同期だが当然性格は水と油で仲は悪く、お互い役割分担と言っては好き勝手に捜査を進めていく。そしてそれぞれが独自の観点から進める捜査が時に「交錯」して化学反応を示し、膠着状態にあった捜査が打開され、真相が見えてくる。そして2人もお互いの能力を認め合っていく。

 

 本作品は「交錯」「策謀」に続いて3作目。お互いが自分の役割を認識してきた頃だが、今回は普段は冷静沈着な西川がなぜか事件に入れ込んで熱くなっていき、それを沖田がなだめ役となりながらも、2人の丁々発止は続けられる。またこの作品から追跡捜査係になった若い三井さやかと庄田も、沖田・西川と並行してやり合いながらも前向きに進んでいき、解決に結びつける。この辺の三井さやかは「失踪係」の明神愛美と似ている。

 第1作、第2作でも協力を仰いだ大阪府警の情報もあって事件が動き出す形になり、ちょっと本来の捜査陣が可哀そうな気持ちにもなるが、そこはちゃんと「同情できない」わかり易い嫌なキャラクターを責任者に置いている(笑)。なお事件の真相は堂場作品ではやや「凝った」構造となっている。そこに気付く西川のプロファイリングによる「違和感」。これは職人肌の刑事の「勘」につながるものであろう。

 本作品のあと、「標的の男」を挟んで第5作は「刑事の絆」となる。いくつかの事件を経験してだんだんとコンビプレイが「こなれて」きた二人だが、この作品では沖田と捜査一課時代同僚だった「アナザーフェイス」の大友鉄が「最大の危機」に出会い捜査が続行できなくなったため、事件を沖田と西川が引き継ぐことになる。

 いつもより熱く突っ走る沖田。そしていつもよりも熱心に捜査資料を読み込む西川。そして大友の事情を知って慄然とする刑事たち。水と油の二人の刑事コンビを電熱線にして、沖田と大友、そして捜査をする刑事たちに派生していく「絆」をこのシリーズを通して描いている。

 

警視庁追跡捜査係シリーズ

 交錯(2010年) 通り魔を別の男が刺し殺す事件と強盗事件が、思わぬ形で交錯する。

 策謀(2011年) 国際指名手配を受けていた容疑署が堂々と実名で帰国し、容疑を否認する。

 謀略(2012年) OLへの強盗殺人事件が連続して起きた。手口から連続事件と見られたが・・・・

 標的の男(2013年) 監視中の容疑者取り逃がした沖田は、病室で資料の見直しを余儀なくされる。

 刑事の絆(2013年) 次世代エネルギー資源を巡る国際規模の策謀に巻き込まれる沖田と大友鉄

 暗い穴(2015年) 男の供述で遺体が発見されたが、近くに死亡時期の異なる遺体が発見される。

 報い(2017年)  二年前に起きた強盗致死事件の容疑者は、重傷で発見されてそのまま死亡する。

 脅迫者(2018年) 新人時代の事件に違和感を抱いていた沖田は、20年ぶりの再捜査を決意する。

 垂れ込み(2020年) 情報提供者は約束の場に現われなかった。その男と絡み合う複数の事件

 時効の果て(2021年) 週刊誌の見出しに、迷宮入りしたバラバラ殺人事件の新証言が掲載された。