小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 二度泣いた少女(警視庁犯罪被害者支援課) 堂場 瞬一 (2014~)

【あらすじ】

 過去の交通事故で恋人と共に心身ともに被害を受けた元捜査一課の刑事村野秋生は、捜査の第一線から退き自らが経験した犯罪被害者を支援するため、同課への異動を希望し、被害者の心に寄り添う仕事をしている。ある日村野が受けた電話から聞こえた被害者家族の名前「青木那奈」に、同期で同僚でもある隣の松木優里は衝撃を受けた。

 彼女は松木が支援課に赴任した頃に担当した少女。八年前に父を殺された少女が、今度は義父の死体を発見した。二度繰り返される悲劇に直面した少女は決して涙を見せず、自分の殻に閉じこもり何かを隠そうとしている。

 しかし素直に語らない少女に、捜査陣は疑惑の目を向けていく。

 

【感想】

 警視庁の「3大嫌われ者」と言われる(=作者堂場瞬一が言っている)、余計な捜査をする高城が室長となった失踪課。未解決事件の粗探しをする沖田と西川が在籍の追跡捜査係。そして本シリーズの舞台となる犯罪被害者支援課。本シリーズの主人公は前の2つのシリーズと違い、自ら望んでこの部署を選んでいる。

 事件の捜査と違って正解も終わりもない仕事の中で試行錯誤しながらも、自分のできる範囲でベストを尽くそうとする村野とその同僚の優里。そして不本意で支援課に異動となり、仕事に熱意のない同僚もちゃんと(?)設定してある。またシリーズ内ではこの2つの課とのコラボも交えている(次第に「番宣」のように感じてくるのは錯覚か?)。

 そして被害者及びその家族と接触することで、新たな事件の端緒に遭遇することもあれば、事件の解決のヒントに繋がる情報を得ることもある。この辺は失踪課の流れを汲んでいて、主人公も捜査一課経験者という設定もしている。とは言えこの流れは当然捜査一課と対立することも多くなる。

*シリーズ第1作は、日常にある事件を連想させながら、その裏側に迫ります。

 

 本作品はシリーズ第3作目。8年前に父を殺された少女が、15才になって今度は養父か殺される。そして15才とは思えない気丈な振る舞いと、何かを隠す行動に対して捜査陣からは疑惑の眼が注がれる。その理由は「警察に協力的でなく」,「警察は偶然という言葉を嫌う」ため。

 2度目の被害を受けた少女に対して入れ込む同僚の優里を筆頭に、被害者を被害者として扱う支援課と、被害者家族でも容疑者は容疑者として扱う捜査陣。そんな状況でその場の雰囲気を和ませる天性の才能を持つ安藤梓と、「少女を支援する一番の方法は真犯人を捕まえること」と煽る保渡橋課長が、いい味を出してくれる。

 捜査陣を強引で自己中心的に描いているせいが、被害者家族に寄り添うことで情報を引き出し、捜査陣を出し抜いて真相に迫る様子は、犯人相手と言うより捜査陣に対しての「勧善懲悪」ドラマのような錯覚に陥る。結果的に被害者家族を救ったが、それではいけないはず・・・

 真相が判明しても、支援課の仕事は終わらない。悲劇に遭い、8年前は父の死を前に周囲が心配したほど号泣した少女が今回は涙を見せずに、不自然なほど気丈に振る舞っている。そんな心の底にある硬い「殻」から解き放つのが支援課の仕事。徐々に心をほぐし、「無理に」背負っていた荷物を下ろす手助けをする。そして主題となる、本作品の題名となる場面が訪れる

 犯罪被害者と言っても様々。例えば第1作では複数の被害者の家族の中で、大事な人が一瞬で失ってしまった喪失感で前を見ることができない人だけでなく、怒りを理不尽に警察に向ける人、犯人を関わりのあった者、次の犯罪に手を染めようとする者と様々描いた。

 シリーズ内で主人公と同じく警察が被害者家族のなった人や、モンスターペアレンツのように自分のことばかり主張して、警察に全く協力せずに文句ばかり言う被害者家族もいる。手練れの作者だけあって、そこに被害者ということで、どれだけ支援しなければならないのか、という根源的な問いかけも読み手に投げかけている

 

警視庁犯罪被害者支援課シリーズ

 壊れる心(2014年) 通学児童の列に暴走車が突っこみ死傷者多数。しかし事件は予想外の展開に。

 邪心(2015年) リベンジポルノの相談を受けた支援課。対策に苦慮するが女性が暴漢に襲われて。

 二度泣いた少女(2016年) 八年前に父が殺された少女が、今度は義父の死体を発見した。

 身代わりの空(2017年) 飛行機墜落。事故死した指名手配中の犯人について捜査を進めていく。

 影の守護者(2018年) 交番襲撃事件で射殺された警部補の息子は捜査一課の刑事でもあった。

 不信の鎖(2019年) ブラック企業として知られるハウスメーカー社長の娘が殺害された、

 空白の家族(2020年) 人気子役が誘拐されたが、父親は詐欺事件の首謀者だった因縁の男だった。

 チェンジ(2021年) 通り魔事件の現場に駆け付けると、捜査一課追跡捜査係の沖田が聴取していた。

 

*最新作は、「嫌われ者同士(?)」、追跡捜査係とのコラボ。