小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

15 歪(ひずみ) (捜査一課・澤村慶司) 堂場 瞬一 (2010~2013)

【あらすじ】

 22才の大学生日向は、振り込め詐欺の主犯格。警察の取り調べを受けたら簡単に口を割りそうな男を口封じのために殺害する。同じころ自分の美貌にまかせて無責任な生き方をしていた真菜は、育児放棄が原因で娘と夫を殺害してしまう。

 2人は同級生で、逃走のために立ち寄った故郷で再会する。学生の頃特に仲が良かったわけではなく、またお互いの事情を理解していたわけでもないが、悪天候などもあり協力して逃避行を続ける。「最高の刑事」を目指す澤村は、アメリカで本格的なプロファイリングを学んだ情報分析官の橋詰の力を借りて、犯人を追いかけていく。

 

【感想】

 覚せい剤常習犯を追い詰めたが、射殺をためらったために人質の幼女が殺害された過去を持つ澤村慶司(刑事に「けいじ」とネーミングしている)。そのため「最高の刑事になる」ことを目標に、生活は簡素に、服装も動きやすいものにし、事件となったら熱く動き回るのは第二の鳴沢了。そして相棒と言える情報分析官の橋詰は、鳴沢の相棒の今(こん)とキャラクターがかぶる。

 本作品は澤村刑事3部作の2作目。最初からしばらくは犯人の日向視線で、日向の内面や犯罪に至るまでの様子、そして同級生だった真菜との出会いと逃避行を描く。中盤から澤村視線に移り事件の捜査から追跡の過程を描く構成となっている。

 日向が手を染める犯罪の動機は余りにも短絡的。「軽い罪を隠すためにより重い罪を犯す」のはちょっと無理を感じる。それでも逃走中に「俺はこんなところで終わる人間じゃない」と自分に鼓舞しながら活路を見出そうとするが、読者から見れば冷めた視線になってしまう。

 対して同級生の真菜は、自分の美貌が周囲にどのように映るか、そしてどう利用すればいいのかを知り尽くしている。ネットで描かれそうな人物設定だが、心に闇を抱えている存在。ネットで見ても前半の主人公、日向に感情移入ができないせいか、視点が何度か変わるせいか、読者の評判も余りよろしくない様子である。

 ところが実は、本作品は私の中では堂場作品の中でも1,2を争う「偏愛の書」

 

*澤村刑事シリーズの第1作は、猟奇殺人が10年前の殺人事件と交錯します。ドラマでは反町隆史が演じました。

 

 日向と真菜の故郷である東北地方にある山間の過疎の雪国。盆地と雪で閉塞感が漂い、夢を持つ若者はそこから抜け出して新たな人生を切り開きたいと願う。そんな希望を心に秘めて、高校時代仲間内では斜に構えていた2人。そして2人とも願い通りに都会に出て、そしてともに「犯罪」に手を染めて夢は一旦挫折する。

 故郷に戻り、そこから逃走して再起をはかる2人だが、その2人を阻むのは故郷の象徴でもある「雪」。予定の逃走路の変更を余儀なくされ、別のルートでの逃走を図るがそこでも雪に阻まれる。雪に阻まれ立ち往生している間に、澤村たちの捜査が迫る。故郷から出た2人の人生が、そのまま故郷をスタートとする逃避行の軌跡に重なる

 日向視線、澤村視線で進んできた物語は、最後に突然「第3の視線」に移る。そこで描かれる心の中の「歪」の真相に、心はわし掴みになる。1人は雪で立ち往生して捕まり、1人はそこから抜け出すことに成功する。但しそこを抜け出しても、既に「人生の交差点で、間違えた道を選んでしまっている」。そんな人物に待っている、物語の幕を閉じる凄惨な描写は余りに見事であり、全てが完全に計算され尽くされている。

 故郷の様子、そして最後の場面と、本作品は画像が脳裏に浮かぶ光景が多い。本作品に限らず堂場作品は様々な土地を舞台に描き、事件と並行して平成以降の「日本風土記」を作成している夜間人口のないオフィスビル街、繁華街、郊外、ベッドタウン、大都市周辺の地方都市、地方の中核都市、地方の小都市、過疎の山間地区、海辺の地域、雪国。それらは全てディテールが細かく、情景として浮かび易く描かれている。

 舞台の土地が1つの登場人物となり、その土地の持つ意味が物語に深みを与え、物語を読み進める重要なファクターとなっている。

 

*第3作は所轄へ赴任した先でストーカー被害を訴えていた女性が殺害され、警察の失態が指摘されます。