小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

16 検証捜査(捜査シリーズ) 堂場 瞬一 (2013~2020)

【あらすじ】

 ある捜査の失敗で離島に左遷中の神谷警部補。非番の日に突然本庁刑事部長から神奈川県警に出頭命令が出る。そこで警察庁のキャリアをチーフに、北海道、埼玉、大阪、福岡の各警察から集められた刑事がチームを組んで、無罪判決必至と思われる神奈川県警で手掛けた連続婦女暴行殺人事件を検証することになる。

 検証を進めると当時の捜査陣の杜撰な捜査ぶりが浮き彫りにされていく。そしてその捜査をよく思えない神奈川県警の捜査陣。そんな中タレコミが入り、捜査の実態と事件の真相が暴かれていく。

 

【感想】

 各警察から招集して県警の不祥事の検証チームを作る。元々設定に無理があるが(これでは監察室はいらない。百歩譲っても警視庁からの選抜チームだろう)、そこは小説。しかもその後の「スピンオフ」作品も構想しての設定なのでしょうがない。まあ、面白ければそれでよいのだ(^^)

 主人公の神谷警部補は敏腕の捜査一課捜査員だったが、事件捜査で「見込み」が違い犯人でない人物を締め上げたことで、被害者への体面もあり、伊豆大島署に異動となった身。中年でバツイチ。以前は敏腕だが現在は恵まれてない、一言多い皮肉屋の人物設定は「失踪課シリーズ」の高城警部と重なる。

 捜査権限はないので最初はやや物足りないが、徐々に当時の杜撰な捜査手法の問題が明らかになっていく。そこでお茶を濁すかと思ったら、神谷が神奈川県警の切れ者、当時も捜査の主導権を握っていた重原管理官にうまく「嵌められて」またカッとなり失敗を重ねる。チームから離れ伊豆大島に戻った神谷に、チームの一員である保井凛が、一行全てを

 凛。

と表現する、挿絵のように、そして「凜」と立つ情景が浮かび上がるような、印象的な漢字一文字を使って現れる(横書きだと効果が半減するのが残念)。そこでタレコミした県警の警察官が自殺したことを伝え、この事件に入れ込む原因となった自分の過去を告白するところから捜査にエンジンがかかり、テーマは真犯人の捜査に移る。

 

*神谷と保井凜はなぜか恋人になっている!? その経緯までは描かない作品。

 

 真犯人は予想外の人物でちょっとやりすぎの感も正直あるが、チーム設定から始まる本作品の構成からすればこれだけ大掛かりな背景も必要だろう。それにしてもこれでは神奈川県警の不祥事ではないような気もするが・・・

 作者は「シリーズではない」と言っている。ここで集まった捜査員が各持ち場に戻ってそれぞれの事件を担当する「スピンオフ」を描いている。

 第2作「複合捜査」は埼玉県警の若林が「評判の悪い」夜間緊急警備班の班長となり部下を振り回す。

 第3作「共犯捜査」は福岡県警の皆川が誘拐事件にあたり、自己の失敗と取り返す。

 第4作「時限捜査」は大阪府警の島村「梅田署長」が、異動直前に起きた立て籠もり事件を指揮する。

 第5作「凍結捜査」は北海道警の保井凛が、殺人事件と過去の暴行被害者の関連を追いかける。

 最終作「共謀捜査」はICPOに出向した永井がフランスで拉致され、チームが集まり救出を図る。

 

 本作品の主人公である神谷は2作目以降は各作品にちらっと顔を出す「狂言回し」の役目を担うが(第5作では保井凛の恋人として!)、基本的には第5作までは各人が主人公のストーリー。そこを事件の舞台である各地の名所などをいつもの通りのディテールで描いている。1つの事件を介して各地から人が集まり、事件が終わればまたそれぞれの持ち場に戻って、その地域での活躍を描き、そしていざという時にはチームが再結集される

 「日本風土記(?)」を書き進めている作者からすると、この構成はチーム編成がやや現実離れしているのは承知の上で、抗しがたい「趣向」であったろう。

*最終作はやはりというべきか、各県警に配属されているメンバーが皆再結集します。