小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

17 見えざる貌(刑事の挑戦・一之瀬拓真シリーズ) 堂場 瞬一 (2014~)

【あらすじ】

 皇居周辺でジョギングを楽しむ女性が立て続けに襲われる。被害者にランナーである以外の共通点はなく、通り魔的な犯行と考えられた。

 皇居周辺は千代田署と半蔵門署で管轄を分割しており、一之瀬は同期の半蔵門署刑事課・若杉と共に警戒にあたるが、第三の事件が発生。女性タレントが襲撃された。2人は彼女の警護を担当するが、ついに殺人事件に発展する。

 被害者は女性タレントと姿形が似ていて、タレントと間違えて襲われたと思われた。

 

【感想】

 堂場作品の主人公は、いずれも過去に心の「傷」を追った刑事が多い。その傷を抱えながら事件を追い、事件を通してその傷と向き合い、乗り越えようとする過程を描いている。ところがこのシリーズは、その(まだ?)傷を受けていない「まっさらな」新人刑事を主人公とし、その成長を一つのテーマとしている。

 そのため「今時の若い者は」的な発言も随所にあり、23才年上の教育係である藤島とのやり取りが面白い。「足で稼ぐなんて今時古くないですか」と放言し、時にはマニュアルが欲しいと嘆く一之瀬を軽くあしらい、都度ポンポンと指示を出す。とは言え頑固者気質ではなく、柔軟に、広い視野で若者を見ていることがわかる。

*スタートした時は、ベテランにも言いたいことを言う「今時の若い者」でした。

 

 本作品はシリーズ第2作。日本のど真ん中、千代田署の刑事に配属になった一之瀬が、それこそ日本のど真ん中である皇居周辺を舞台する事件。まず同期の若杉との関係が「あるある」で面白い。自分では職場での仕事に余り覚悟はないものの、周囲から「できない」とは思われたくない。そして現れる同期がやる気バリバリでコッテリ感が強く、余り付き合いたくはないが意識せざるを得ない存在。

 そんな内心を表に出さずに適度な距離を保ち、捜査に協力する一之瀬。同期とは最初はライバルに見えるが、それぞれキャリアを経験して、組織の中で自分の「居場所」ができると今度は「戦友」となるもの

 事件は意外な展開を遂げる。ジョギングでの捜査は若林に敵わないが(笑)、暴行犯は一之瀬の活躍もあり取り押さえるも殺人事件は否認する。そして判明する事件の真相。ここまでやる?との感想をうけつつ、ありうるかもな、との思いもさせるもの。

 そして事件への取り組み。「ルーキー」には失敗がつきもの。あっちでガツン、こっちでゴツンとぶつかりながらも徐々に仕事を覚えていく。そこで気にして萎縮するか、それともそれはそれとして「図々しい」と思われながらも前向きに向かっていくかでその後の道が分かれていく

 一之瀬はその点やや頼りない面も見られるが、武器は「素直」なこと。変にごまかさず、だんだんと人の意見を受け入れ、自分なりに咀嚼して、経験と血として肉として蓄え、成長していく。

 紆余曲折はあったが、一之瀬は第4作「特捜本部」で警視庁捜査一課に栄転する。そこでも失敗をしながらも前に進んでいく。そして教育係となり「今時の若い者は」と嘆く「中堅」になる。成長すること。それは「カドが取れて」、「組織に取り込まれる」ことかもしれない。

 主人公一之瀬は、タイプ的には「アナザーフェイス」の大友鉄に近いが、事件の関わり方によっては、鳴沢了や澤村慶司のようになる可能性もある。また神谷警部補のように左遷を経験することも・・・

 各シリーズ作品の冒頭で、恋人の深雪との「ほっこり」した絡みが物語の掴みとして微笑ましい。「特捜捜査」で結婚、父親にもなったが、この2人には諸先輩のような「傷」を負わせないよう、切に望みま

 

刑事の挑戦・一之瀬拓真シリーズ

 ルーキー(2014年) 千代田署に転属した新人刑事。ビジネス街で殺人事件が発生する。

 見えざる貌(2014年) 皇居周辺でジョギングを楽しむ女性が立て続けに襲われる。

 誘爆(2015年) 丸の内のオフィス街で爆破事件が発生。一之瀬は企業脅迫事件と直感する。

 特捜本部(2016年) ゴミ箱から発見された切断された女性の腕の指には、母校のリングが。

 奪還の日(2017年) 強盗犯の身柄を福島から護送する途中、護送車が何者かに襲撃される。

 零れた明日(2018年) 芸能事務所社員が殺害された事件で、容疑者が聴取後に逃亡した。

*経験を重ねるにつれて、今度は一之瀬が若い者に厳しい目も・・・・これも「あるある」。