小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

17 警視庁公安部・青山望シリーズ 濱 嘉之  (2011~2018)

 ついに警察出身、しかも公安出身者が警察小説を書く時代になった。

 まず前シリーズに「警視庁情報官」シリーズを手がけている。ノンキャリアだが情報のエキスパートである黒田情報官を見込んで、警視庁及び警察庁トップクラスの肝いりで情報の収集及び分析を専門に扱うセクションが創設せれる。様々な情報を収集し、それを独自の人間相関関係フローに落とし込んで情報のスクリーニングを行い、その微かな情報を手がかりに大事件を阻止、または黒幕を含めて退治する、警察のスーパーマンのような物語。情報の収集・スクリーニング方法などは、公安ならではのリアルを描いている。

 本シリーズはその続編的で、時々「伝説の」黒田情報官の噂も出てくる。但しスーパーマンを1人でしょい込むのは無理があるので、本シリーズはノンキャリアの同期4人がそれぞれの分野で専門能力を発揮しながら、情報を共有し捜査を協力して、事件を解決・阻止する役割を分担する。4人を配置したため、捜査に広がりを持たせ、ビジネス小説のような趣もある。

 主人公の青山中央大学剣道部出身。公安部出身の優秀な情報官で内閣官房情報調査室の勤務経験もある。独身で各地の名産・名物・名店の造詣も深く、そのウンチクを傾けながら夜の会合を通して、フィクサーからチンピラ、そして近所の人まで幅広い分野の人物と人脈を広げている。現場で麻布警察署警備課長に出るが、そのあと公安部に戻っている。

 藤中克範。筑波大学ラグビー部出身。体重は100キロ声でも体力は抜群。妻は婦警、義父も刑事の警察一家。捜査一課の強行犯一筋で管理職では「花形」新宿署の刑事課長となるが、その後なぜか科学警察研究所に転勤。全くの畑違いでショックを受けるもすぐに立ち直り、その後は仕事に邁進することで、自分の能力の幅を広げていく。

 大和田博。早稲田大学野球部出身。一般入試で入学するも正捕手のレギュラーを獲得する努力家。妻はその野球部のマネージャー。警察庁の大臣官房総務課に派遣経験もあるエリート。暴力団対策を専門とし、浅草署組対課長として現場に出るが、その後は以前経験のある人事部の監察・表彰係というエリートコースに異動し、警察内部の情報を蓄積していく。

 龍一彦。関西学院大学アメフト部出身甲子園ボウル優勝のメンバーでアメリカ留学経験もある徹底的な個人主義者。キャリアが課長になる捜査二課(知能犯)担当が長く、一旦築地警察刑事課長となり、その後本庁捜査二課担当管理官として舞い戻り、専門を生かしてキャリアを支えつつ捜査を指揮する。

*本作の「前史」警視庁情報官シリーズは7作続きます。

 

 そして警察(公安)出身の作者が描く情報が「リアル」。時には派手な、時には些細な事件から物語は始まる。それが政界・財界・官僚・暴力団・半グレ・チャイニーズマフィア・北朝鮮ハッカー・芸能界など、業界の中の意外な人脈と内幕を、時に「爆弾を投下するように」暴露しながら、事件の「巣」を辿っていき、最後に一網打尽にする。

 4人ともだんだんと年齢を重ねていくと、ポストが少なくなっていく。表には出さないが、それぞれ心の中に、4人との競争、そして警察人生の「着地点」を探し出す。

 12作続いたシリーズの最後はほろ苦い。これだけ活躍した4人も、それぞれの人生において別々の道を歩まざるを得なくなる。但しこれが日本の「会社員」の宿命であり、それは警察官も例外でない。

 作者はこのシリーズに限らず様々な情報を暴露したため、古巣からの視線は冷たい様子。但しシリーズの登場人物は皆スマートで前向きだ。作者は事件については「リアル」に描いたが、警察官については「理想」、もしくは作者自身の「願望」を描いたのだろう

 

警視庁公安部・青山望シリーズ

 完全黙秘(2011) 財務大臣が刺殺され逮捕された男は「完全黙秘」。身元不明のまま起訴される。

 政界汚染(2012) 次点から繰上当選した参議院議員の周辺で、関係者が次々と死んでいく。

 報復連鎖(2013) 大間からマグロとともに届いた氷詰めの死体。新宿の半グレ集団との繋がりか。

 機密漏洩(2013) 平戸に中国人5人の射殺死体が漂着した。船内には元自衛官の指紋が――。

 濁流資金(2014) 仮想通貨取引所の社長が暗殺された。同時に政財界のホープが次々と不審死する。

 巨悪利権(2015) 九州ヤクザの大物の他殺体。解明を急ぐと日本を牛耳る巨大宗教団体の存在が。

 頂上決戦(2016) 新たな敵はチャイニーズ・マフィア! 悪のカリスマの裏側は中国の暗闇だった。

 聖域侵犯(2016) 伊勢志摩サミットで緊迫する英虞湾で、死体が引き上げられる。

 国家簒奪(2017) 大量の覚醒剤密輸にたずさわっていた暴力団の若頭が名古屋で爆殺された。

 一網打尽(2017) 京都・祇園祭の夜、中国マフィアが韓国の集団スリを銃撃した事件の背後には。

 爆裂通貨(2018) ハロウィンの渋谷で殺人事件が発生。背後の北朝鮮とテロの予兆を察知する。

 最恐組織(2018) 東京マラソンと浅草三社祭で、覚醒剤混入殺人事件が相次いで発生する。

*そしてこの後「警視庁公安部・片野坂彰」シリーズとして続きます。