小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

12 献心(警視庁失踪課・高城賢吾) 堂場 瞬一 (2009~2013)

 失踪課。「失踪事件」を専門に扱うプロ集団とは表向きで、頻発する失踪「騒ぎ」に話を聞いて、警察は動いているよというアピールで生まれた部署。そのため周囲からは閑職と思われている。

 主人公は登場時45歳の高城賢吾。7年前に一人娘の綾奈(当時7歳)が学校帰りに失踪。何の手がかりも掴めず弁護士の妻との間に溝が出来始め、別居を経て離婚する。それ以来、酒浸りの生活を送るようになり、問題行動が多くなったため、捜査一課を外され所轄など異動を繰り返していたところを、かつての同僚で現在室長の阿比留真弓に買われて失踪課に異動となった。

 ヘビースモーカーで皮肉屋のところもあり、服や靴には全くこだわらない、鳴海了とは真逆の設定。しかし元々は「できる」男で、興味が向けば熱心に調べ、名刑事振りを発揮する。

 そして舞台も失踪課に限定し登場人物も固定したため、チームとしても描きやすくなっている。しかも「失踪課」という閑職のため、集まる人物も多種多様。主流に返り咲きたい人阿比留室長)、病気を抱えて無理できない人やる気のない人、そして合コン三昧の人(?)等など。そんなハチャメチャなチームとしての絡みを描きながら、各人がシリーズ内で大きな役割を果たすところも描いている。これはまさに連続ドラマでありそうな展開。

 そんな中で高城を、そして本シリーズを引っ張っていくのが、高城の相棒の明神愛美(めぐみ)。有能で念願の捜査一課に異動する予定が、本人の関わり知らぬ不祥事のとばっちりで失踪課に移ったもの。そのため異動直後は不満たらたらで失踪課の「澱んだ」空気に反発していたが、事件を追うごとに高城に対する信頼が高まり、次第に失踪課の仕事を前向きにこなすようになる。

*シリーズ第1作。登場人物の紹介と、主人公の過去が少しずつ語られる。

 

 実は私も、当初は明神と似たような印象を持った一人。「暴れん坊刑事」鳴海了シリーズの後に、失踪をテーマにした、二日酔いの中年男を主人公とは、単に真逆の設定にしただけだろうと、軽く見ていた。

 ところが「失踪」は奥が深い。失踪の原因が殺人事件に、経済事件に、誘拐事件に、職場間の人間関係に、そして家庭内の「悲劇」につながっている。調べを進めるうちに、「失踪の深層」を探ることになり、そこで捜査一課や他部署が乗り出して手柄を横取りすることもあるが、わかる人にはわかる。シリーズが全10作。失踪課の取り扱う事件も、それぞれがマンネリにならず全く飽きない展開が続く。

 そしてシリーズ全体を通してもう一つの「失踪」が重く影を落とす。主人公高城の娘が失踪した事件。刑事としての生きがいを失い、酒に逃げた主人公。ちょっとした偶然で娘の遺体が発見され、また酒浸りの生活に戻り無断欠勤を繰り返す高城。

 第9作「闇夜」では、そんな高城に対し、強烈な態度で相棒の明神愛美が叱りつけるところから始まる。そして仕事に復帰した高城を待ち受けていたのは娘と同じ7歳の少女の失踪事件。しかも捜索の甲斐もなく少女は遺体で見つかる。自分と残された両親を重ね合わせる高城。次第に自身の娘の失踪事件とも正面から向き合おうとする

 最終作「献心」。娘の失踪事件で新しい情報を得た高城は、わずかな手がかりを頼りに自ら調査を進める。そして判明する真相。作者が失踪課を舞台にして、延々10作品書き続けたのは、このラストが書きたかったからなのか。ロス・マクドナルドは失踪事件の捜査からアメリカの家庭の悲劇を様々な形で描いている。その手法を本シリーズでは最後に犯人だけでなく主人公にも持ってきた。そして高城の気持ちを慮(おもんばか)る同僚たち。

 最後の場面は、表紙の写真と「献心」というタイトルとともに、本シリーズを読み終えたあとの深い感慨を抱かせる。

 

警視庁失踪課・高城賢吾シリーズ

 蝕罪(2009年) 翌月に結婚を控えた会社員が失踪、調べると会社での不正疑惑が持ち上がる。

 相剋(2009年) 通り魔の目撃者が失踪した。そして女子中学生の失踪も非公式に調べると・・・・

 邂逅(2009年) 大学理事長が失踪するが、依頼者が急に非協力的に。一方その大学で殺人事件が。

 漂泊(2010年) 火災の爆風に吹き飛ばされた部下の明神。その火元では他殺の跡がある遺体が。

 裂壊(2010年) 上司の阿比留が失踪。一方失踪した女子大生の恋人が捜査依頼に訪れる。

 波紋(2011年) 阿比留が出世の道を断たれてやる気を失い、室は空中分解に。

 遮断(2011年) 同僚の父親で高級官僚が失踪するが、明らかに事情を隠している様子だった。

 牽制(2012年) 娘の失踪事件に向き合う決意した高城。そんな時ドラフト1位の球児が失踪する。

 闇夜(2013年) 娘の死から高城は酒浸りに。そんな時同じ年頃の少女の失踪事件が重ねて起きる。

 献心(2013年) 娘の事件を自らの手で解決に執念を燃やす高城。そしてその真相を知ることになる。

*現実から目を背ける高城と、それを強く、優しく見守る仲間たち