小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 第四の壁(アナザーフェイス) 堂場 瞬一 (2010~2018)

【あらすじ】

 大学時代に所属していた劇団「夢厳社」の20周年記念公演を観覧していた警視庁の刑事総務課に勤務している大友鉄の目の前で、劇団の主宰者が刺殺される。それは上演中の劇のシナリオ通りの展開だった。

 独裁者とも呼ばれた彼に気に入らないと暴力もふるうため敵が多く、またテレビの世界で成功を収めた元劇団員たちとの間にも確執があった。大友はかつての仲間たちを容疑者として捜査を進めることになる。

 

【感想】

 主人公の大友鉄は2年前まで捜査一課の刑事だったが、妻・菜緒が交通事故で亡くなり、育児との両立のために現場を離れ、総務課への異動を希望した。ところが度々現場の捜査の「支援」を要請される。

 学生時代は芝居に打ち込む。役になり切る演技は人一倍で、そのまま役者を進めても大成したと思われたが、当時付き合っていた「菜緒を守るために警察官になる」と堂々と言わせる性格。家族を犠牲にして捜査をする刑事像が多い中、「イクメン」を主役にするのは時代の趨勢か。これだけの愛情があるならば、妻の突然の事故死で前シリーズの高城のような喪失感に襲われただろうが、息子優斗を育てることに生きがいを見出している。

 不思議と他人に警戒心を与えないタイプで、質問すると相手がつい話してしまう能力は周囲から羨ましがられる。優男でイケメンと評されることが多い、これまた警察小説では特異なキャラクター。しかも有能な役者の経験を、捜査の隅々に活かす工夫をしている。

 

*前作は冒頭で女弁護士が自首する、魅惑的な謎が読者の心を掴む。

 

 舞台用語でもある「第四の壁」では、事件自体も「シナリオ通りに現実の殺人事件が起きる」謎が提起されるが、それとともに特異なキャラクターである大友鉄の背景を描いている。大学時代に打ち込んだ芝居。そしてその時に付き合った妻菜緒との思い出。そして全く畑違いと思われ、周囲を驚かした警察官という選択。これらの描写が過去の仲間への捜査をしながら挿入されていき、読む手を止められなくなる。そして幕切れもこのストーリーに相応しい。

 本作品の存在が、「特異なキャラクター」大友鉄にリアリティーを与え、その後の作品にも生きて来る。手間暇をかけて息子優斗を育て、優斗も聞き分けの良い子供に成長していく影に、亡くなった妻菜緒が透けて見える。そして仕事で多忙の時は「やや苦手な」菜緒の母親である近所に住む義母矢島聖子に優斗の世話を頼み、いちいち心に突き刺さる言葉を投げかけられる。その住んでいる街が町田。典型的なベッドタウンで、街並みが雑踏として生活感が強く現れている。そんな街が若くしてシングルファーザーとなった大友が住むのにふさわしい。

 また「遊軍」である大友のために、2人の同期を配して警察小説としてのシリーズ全体の安定感を出している。柴克志は捜査一課の刑事。暴走がちで大友が一課にいた時は彼が手綱を引く役目だった。高畑敦美は捜査共助課から捜査一課に異動する。取り調べ技術の確かさは群を抜く「落としの名人」。高校時代にはハンマー投げ、大学時代には女子ラグビーで活躍と、こちらもキャラが強い。

 最終作「闇の叫び」は、シングルファーザーとして過ごしてきた自分を振り返るような事件。そして息子優斗も成長し、お互いに自分の道を選んでいく。こちらも前シリーズ同様、構想当初から描いていたかのようなエンディングで、このシリーズらしい綺麗な収まり方になっている。

 

アナザーフェイス

 アナザーフェイス(2010年) 誘拐事件で大友は捜査に協力するが、犯人は身代金を見事奪い去る。

 敗者の嘘(2011年) 強盗放火殺人事件の容疑者が自殺するが、女弁護士が自首してくる。

 第四の壁(2011年) 大友が所属していた劇団の公演で、敵の多い主催者が刺殺される。

 消 失 者(2012年) スリ逮捕の協力に出向いた大友だが取り逃がし、そのスリは殺害される。

 凍 る 炎(2013年) メタンハイドレートの研究施設で密室殺人が発生し、大友が応援で捜査に参加。

 親子の肖像(2014年) 妻が亡くなり、シングルファザーとなった大友の姿を描く。

 高速の罠(2015年)  故郷長野で静養中の大友に会いに高速バスに乗る息子が事件に巻き込まれる

 愚者の連鎖(2016年) 完全黙秘を続ける連続窃盗犯の取り調べを行うことになった大友。

 潜 る 女(2017年) 結婚詐欺グループの一員と思しき元シンクロ選手の女の内偵を依頼される。

 闇の叫び(2018年) 中学校の保護者が襲われた連絡が入る。事件と共に自分と、子供と向き合う。