小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

15 戻り川心中  連城 三紀彦 (1989)

 本作品は「我が国のミステリの歴史において、最も美しくたおやかな名花」(by:千街晶之)。推理小説で「たおやかな名花」と表現するのは余りにも隔絶しているが、本作品に限りこの表現がピッタリ。

 大正浪漫漂う日本人の情愛を描いた恋愛小説と、殺人を主とする探偵小説を、男女の間に潜む「動機」を橋渡しにして見事両立させた。しかも作者は本作品とは別に「夜よ鼠たちのために」という「骨太の」作品も生み出している。創作の底は窺い知れない。

 

【藤の香】

 色街で顔を潰して身元不明の男たちが次々と殺害される。食事屋に勤める「お縫」は、故郷で病弱な夫に仕送りするために、隣に住む代書屋の世話になっていた。色街で、女たちが故郷に送る仕送りに添える文を代書する無口で優しい男。

 ところがその代書屋が殺人事件の犯人として捕まり、口を閉ざしたまま牢獄で首を吊ってしまう。お縫の夫は、被害者が代書屋の場所を聞いたのは、隣に住む自分たちを訪ねる目的としたのではないかと疑いを持つ。

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【桔梗の宿】

 女郎「鈴絵」の元に通っていた男が殺された。彼女を身受けしようと工面した5百円の大金も盗まれる。次いで同じく鈴絵に通って、事件の容疑者だった男も殺される。刑事は情報を得ようと、変装して鈴絵に通うが、埒が明かない。

 そして鈴絵は5百円を受け取っていたことを知り、自分が殺したことを告白するが、翌日自殺する。後悔する刑事に、同僚は「八百屋お七」の物語を話す。

 

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【霧の棺】

 組の中で一目おかれ、親分からの信頼も厚い貫田。貫田に拾われた主人公は、貫田の指示は必ず守る。貫田の愛人・きわも貫田の指示で抱くことになる。そして貫田が殺せと命じたのは親分だった。命令を守りその後出征して、戦争から帰った主人公は、貫田がきわから殺されたことを知る。

 親分を殺す指示を命じた理由、そしてきわが貫田を殺した理由。その理由を知った主人公は牢獄にいるきわを訪れて、彼女と人生をやり直そうと告げる。

 

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【白蓮の寺】

 主人公は幼い頃、母親が男を刺し殺す場面を見た。母は何も語らず息を引き取る。父は寺の住職で、寺の火災で亡くなってから、母は主人公を連れて引っ越していた。母を調べるうちに近くにいた男が母を襲い、自己防衛のために殺した事件が判明する。

 そして母はその男との間に子供がいたことを知る。その子は親戚に引き取られた後、震災で亡くなった。だが、母が刺し殺した男は果たしてその男なのか、そして自分の本当の父親は・・・ 全ては寺の池に植えた蓮の花と、その男の特徴である、薄い眉が知っていた。

 

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【戻り川心中】

 苑田岳葉という天才歌人がいる。彼は一人の女性を愛し、心中しようとするが失敗する。そして似た女性と心中するも、女だけが死に、「桂川情歌」を書き終えた後に自らも死ぬ。苑田のことを調べる主人公は、初めは愛した女性と結ばれないことから心中を選び、失敗したので最後は自殺したと思われた。

 しかし残された歌と「戻り川」と呼ばれる、流れが途中で元に戻る川を自殺の場所に選んだことから、全く別の動機に考えが至る。 

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 ・・・こうべを垂れて咲く5輪の百合を、日本人の心に潜んでいる「琴線」で束ねたような短篇集。

 

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