小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14 生ける屍の死 山口 雅也 (1989)

【あらすじ】

 ニューイングランドの田舎町にあるトゥームズビル。そこではバーリイコーン一族が巨大なスマイル霊園を運営していた。一族の1人である青年グリンは、両親を早く亡くしてイギリスで暮らしていたが、当主に呼ばれてバーリイコーン一族の屋敷に居候することになった。

 長い間病を患っている当主のスマイリーの遺言状作成のために一族が集まったところで、街では死者がよみがえるという不思議な事件が次々と起こり始める。そして当主の死を目前として、自分の意を通そうと他の親族を排除しようとする陰謀を察知する。殺人鬼の魔手が徐々に一族に近づいていく中で「死者となった」グリンは謎を解くために必死に動き回る。

 

【感想】

 まず死者が蘇るという物語の設定が特殊。この設定を初めて読んだ時は、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」を連想した(小野不由美作「屍鬼」の刊行は1998年)。そしてこれはミステリーではないな、と先入観を持つ。ところがミステリーとして評判が良いので読んでみるとビックリ。この世界観でしか通用しない論理性に満ちたミステリーになっている。

 まずは小説全体の雰囲気。文章全体が乾燥したアメリカ風土の雰囲気に覆われて、アメリカの田舎町が巧みに描かれている。そして「スマイル」という霊園の名称や登場人物の会話など、「死者が蘇る」設定なのに軽妙な会話も相まって物語りは進んでいく。主人公の運転で疾走するピンク色の霊柩車(笑)からか、小説全体の雰囲気もあって、ロス・マクドナルドの「縞模様の霊柩車」を思い出す。

*ジャンプで連載された第1回から読んだが、まさかこれほどまで続くとは・・・・

 

 主人公のグリンは既に死んでしまったので死を恐れる心配はないが(?)、身体が腐らないように防腐処理(エンバーミング)を行なったり、肌色を保つために化粧を行なうなど、倒錯した世界観の中で「生きる」グリンの姿はかなりコメディに満ちている。

 但しそんな雰囲気で物語が進むため、ミステリーの論理性が予想外のところに潜んでいることに気がつかない。死者が蘇る世界と現実社会での論理。そのギリギリの境界で現実の論理と矛盾なく、そして死者が蘇ることによって成立する論理も巧みに組み合わせて描いていく。最初に殺害された主人公グリンの事件に潜む真相。そして真犯人の動機などが、この世界観の中で矛盾なく、幾重にも張り巡らせているのは見事というしかない。この設定を完全に生かし切ったプロットが全て緊密に繋がっていることに気づかされた時は、感嘆の思いしか残らなかった

 見事謎を解き明かした主人公グリンに、別れのシーンがやってくる。本作品の「宿命」と言うべき最後は、この世界観の中で最高の幕引き。最後まで設定を生かし切った、考え抜かれた作品。

 本作品はその後のミステリー、特に「新本格派」に大きな影響を与えた。印象的な謎を提示して、それを論理的に解き明かすためには、多少奇抜と思える世界を設定しても許される道筋を作った。そして本作品以降、数多くの「奇抜な設定をもうけたミステリー」が次々と生まれる。但しその奇抜な世界の設定と、その世界ならではの論理的な謎の解明。そしてその世界観にふさわしい文章が見事に溶け合った作品で、本作品の右に出るものはない。

 死んだ人間が蘇る世界で、なぜ殺人が行なわれるのか」という非常に魅惑的な謎。フィクションの中にも更にメタな世界観を設定して、見事に解決して見せた。

 

*こちらは外国人が誤った日本観から生まれる誤解を利用した作品。よくもこんな設定を思いつくものです。