小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

9 黒後家蜘蛛の会 アイザック・アシモフ(1974)

【あらすじ】

 ミラノ・レストランで月1回、「黒後家蜘蛛の会」という名の例会が催される。メンバーは化学者、数学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家の6名で、ヘンリーという初老の男性が給仕を務める。例会のホストはメンバーが交代で務め、招待した1名のゲストを交えて会食をする。折りを見てホストはゲストに対し「あなたは何をもって自身の存在を正当としますか?」と尋問をする。その回答に毎回謎めいた話題が登場し、メンバーたちは専門の知識を活かして謎解きを試みるが、いつも解決に至らない。そんな中それまでの会話を聞いていたヘンリーが真相を解き明かす。

 

 

【感想】

 SF作家として大家といえるアイザック・アシモフがミステリーに興味を持って1972年から「エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン(EQMM)」に連載を開始した短編集。一度始めると読者の評判も上々で、「人間タイプライター」と呼ばれたアシモフの手が止まらなくなり、打ち続けて短編集は5冊に上った。また作品の最後に披露される「あとがき」に題名や誕生時の事情も書かれて、時にEQMMの責任者フレデリック・ダネイが登場してのやりとりも面白い。

 作品はすべてパズルが中心。題材は日常的な問題のため、殺人事件はめったにテーマにならない。テーマはちょうど発行当時流行っていた「頭の体操」に近いものがある。それでいて読み手を魅了するのは、第1は出される「謎」が解けそうで解けないものだから。そのため読者は、「黒後家蜘蛛の会」の会員と一緒になって考えることになる。第2は、「多重解決」が高い水準で延々と続くから。会員は全てその道の専門家で、その知識に基づいて謎解きをするが、その全てがあてはまらない。そして最後に給仕のヘンリーが出て、それまで話がでた「以外の」真相を語り出す。そのため作家アシモフの「引き出しの多さ」が必要になってくる。そしてこの期待が裏切られることは、これだけの作品数がありながらほとんどない。

 

 個人的に好きな作品を各巻3作品に「絞って」羅列する。但し作品の水準は他も同レベル。

 第1巻は「日曜の朝早く」「何国代表?」「不思議な省略」

 第2巻は「電光石火」「東は東」「終局的犯罪」(ホームズ物。モリアーティ教授を論じている)

 第3巻は「スポーツ欄」「史上第二位」(大統領ものは人気)「よくよく見れば」

 第4巻は「六千四百京の組み合わせ」、「証明できますか?」、「飛び入り」

 第5巻は「同音異義」、「水上の夕映え」、「静かな場所」(何故か気になる作品)

  

 また解説にも注目してください。1・2・3巻は訳者がそのまま書いているが、第4巻で唐突に巨匠鮎川哲也が登場し、この方らしい「遠慮容赦のない」紹介となっている(笑)。せっかく第4巻を手に取った人が、ちょっと残念に思うような解説です(個人的には、第4巻も他と同じような水準でとても面白いです)。対して第5巻は、まだ「黎明期」と言える有栖川有栖が担当。師匠の分もフォローする気概で(??)、美辞麗句(良い意味です)を出し惜しみせず、まるで全5巻全てを担当したかのような解説文となっているのがちょっと可笑しい。

 なお黒後家蜘蛛の会は、ニューヨークに実在し、アシモフも名を連ねていた男性のSF関係者の集いである「Trap Door Spiders」 をモデルにしている。