小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

5 ジョーカー(旧約探偵神話) 清涼院 流水 (1997)

【あらすじ】

 全てのミステリーの総決算。作家・江戸川乱歩と同じ本名を持つ富豪平井太郎が、生涯を賭して築いた陸の孤島幻影城。事件を呼び込む不吉な宿命を持つ記憶喪失の探偵・螽斯(きりぎりす)太郎が幻影城に引き寄せられた時、「幻影城殺人事件」の物語が始まる。

 推理作家の集まり「関西本格の会」が幻影城で合宿を行ない、メンバーの濁暑院留水が自ら考案した「推理小説の構成要素三十項」を網羅した実名小説の構想を発表。他の作家らの期待を集めるが、翌日まるでその構想に沿ったかのように殺人事件が起こる。不可能犯罪の連続に、螽斯はJDC(日本探偵倶楽部)に探偵の支援を要請、次々と探偵が到着して独自の推理を進める中、殺人事件は続いていく。

 

【感想】

 伝統ある京都大学推理小説研究会の異端児か、または日本ミステリー界の暗黒海流、四大奇書の「流水」を汲む嫡子か・・・・ 百家争鳴、非難轟々、笑止千万、阿鼻叫喚(?)のセンセーショナルな作品デビュー作「コズミック 世紀末探偵白書」は1200もの密室殺人(!)をテーマにした、密室を茶化した内容には共感を覚えたが、本作品は推理小説全体に及びアンチテーゼであり、「一周回って」推理小説の約束事全てが復習できる構成になっている。その読み応えを一言でいうと「お腹いっぱい」。

 濁暑院留水というネーミングからして「そのウソ、ホント?」という疑惑が作品全体に覆われるが、作中作「華麗なる没落のために」もどこまではホントのウソで、どこまではウソのウソか・・・・と考えると、「後期クイーン問題」とは全く別物の大問題となって頭の回転が一時停止。結局「流水」の流れるままに読み進めることになる。

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*文庫版では、「コズミック」と「ジョーカー」を交互に繋げて1編としています

 

 とにかく不可能犯罪が次々と起きるので、その詳細は書ききれない。そんな大事件だが「世にミステリーの種は尽きまじ」。「関西本格の会」の推理小説作家たちは、仲間たちが次々と殺されているというのに、自分の身を守ることを忘れて喜々として事件を論じ、作中作と比較していく。まさに作品は「虚」であり、その虚の中に「真の虚」をみつけるような「ネバーエンディングストーリー」になっている。

 本作品に仕組まれた数々の秘密。それが披露された時の驚き。その執念には恐れ入るが、ミステリーの世界に全く寄与しないアイディアというのも驚きを増す(笑)。不可能犯罪も「不可能な解決方法」もあり、アンチミステリーどころか、これまで先人たちが積み上げてきた世界観が次々と崩れ去るような「喪失感」さえ感じる。逆に言えば、それだけ破壊力が強い作品。

 このキャラクターたちは、その後の作品でも受け継がれた。「カーニバル」シリーズも「コズミック」に負けない、「10億殺す男」をテーマにして、ミステリーの概念を破壊し、「彩紋家事件」ではJDC(日本探偵倶楽部)の創成期に遡った不可能犯罪を描いた。

 そこで誕生した探偵の九十九十九(つくも じゅうく)。JDC所属探偵で、「神通理気」の推理アイテム(?)を有する(ほとんど「ジョジョ」の世界ww)。本作品の解決で最高クラスのS探偵に認定され、次の密室卿事件(コズミック)などで、「探偵神(God Of Detective)」の称号を得る。2次元の世界で唯一作者の持ちうる「神」の視点を有する探偵。本作品はその誕生前の事件であり、すなわち「旧約」探偵神話となる

 最後に。エピローグ(幻影章)で明かされた暗号と、事件の真相を物語る「禁断の言葉」。これは本作品の世界観を借用した江戸川乱歩のデビュー作「二銭銅貨」へのオマージュに思える。

 

江戸川乱歩へのオマージュで作られた清涼院流水の世界観は、更に多くのオマージュを生み出しました。