小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

4 レーン最後の事件 (1933)

 題名からしていろいろと想像させる。なぜ「最後の悲劇」としなかったのかとも当時は思った。

 そして「最後の事件」にふさわしい雰囲気をまとわせて物語は進んでいく。

 なお、文体は三人称に戻っている。

 

【あらすじ】

 サム元警部の探偵事務所に「虹色のひげ」を持つ人物が登場し、「もし私から連絡がなかった時はドルリー・レーン氏立ち合いの元、この封筒を開けてほしい」との言葉を添えて、封筒を預ける。しばらくして封筒を開ける状況になり、レーンが登場。そこには1枚のメモがあるが、レーン以外は意味不明の文字。但し後になって「ウィリアム・シェイクスピア」を示すものと判明する。

 そこから、なぜメモが最初は意味不明だったのか、そして「虹色のひげ」の理由から、そのメモを預けた人物のある特性が浮かび上がる。

 並行してもうひとつ、興味深い事件が起きる。改装工事中で閉館している博物館の展示室にあった貴重なシェイクスピア稀覯本が、他の本にすり替えられる事件が発生する。しかも替わりに置かれていた本が、盗まれた本より貴重なものと判明する。

 さらにしばらくして、盗まれた本が送り返されて来る。しかも革表紙が一部切られているものの、修復費も同封されているという気くばりを添えて。

  【感想】

 「シェイクスピア俳優」であるレーンにとっては抗しがたい、シェイクスピアの死にかかる謎を巡るミステリー。老いて一線から退いたレーンも、首を突っ込まずにはいられない。あらすじで書いた2つの事件はやがて交わりあい、シェイクスピアの謎を巡り、追いかけそして対立する「特別な」2人が浮かび上がる。

 その2人の特性は、クイーンが「大好物(?)」なパターンで、見分ける術もやはりクイーンが既に使っている特性。そしてペイシェイスも、一瞬にして「fall in love」となったシェイクスピアの研究家であるゴードンとともにシェイクスピアの謎を追いかけていく。(子供には、この男女の性格と会話が、どうも馴染めなかった・・・)

 殺人事件は終盤に起こる。シェイクスピアの謎を解く手紙が隠されていた家が爆発し、そこから銃殺された死体が発見される。そこで語られる「斧をふるう人」の表現が意味深長。

 現場を捜査してあることに気付くペイシェイス。そしてレーンから認められた推理のセンスは、明確に一人の人物が犯人と示している。その事実に驚愕するペイシェイス。悩んだ末に、犯人を示す決定的な一言が発せられる。

 この一言はとてつもない爆発力をはらんでいた。それはまるでアニメ「天空の城ラピュタ」の1シーンのよう。主人公のパズーとシータが呪文「バルス」と唱えると、古いにしえ)から仕組まれた「からくり」が動き出し、一瞬でその世界が崩壊したように、「レーン四部作」が持つ従来の構造を一機に反転させる力を持っている。そして今までの物語に仕組まれていた伏線が、鮮やかに脳裏に浮かんでくる。

 

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  見事な「趣向」。但し初読の時はまだミステリーの初心者だったためか、本作品の「驚き方」が正直わからなかった。ぽかんとした印象もあり、また過去の作品を思い出すと「さもありなん」とも思えた。その後ミステリーをいろいろと読んだあと本作品を再読して、だんだんと本作品及びこの「四部作」の凄さが伝わってきた。

 この時の「驚き損なった」気持ちを取り戻したい思いでミステリーを読み進めることになるが、その思いを満たしてくれた作品は驚くほど少ない。 

 見事な「起・承・転・結」の「結」。「最後の事件」にふさわしいフィナーレ。