小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

17 体育館の殺人  青崎 有吾 (2012)

【あらすじ】

 放課後の旧体育館で、放送部部長が何物かに刺殺された。外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態。下手側男子トイレに男物と思われる新品の黒い傘、上手側はポスターの上に女子用制服のリボンが置いてあった。どちらもその日の昼休み終了時にはなかったものと、用務員は証言する。

 現場近くにいた唯一の人物、女子卓球部部長の佐川奈緒のみが犯行が可能だと警察は疑う。死体発見現場に居合わせた1年生の卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長を救うため、学内随一の天才・愛染天満に真相の解明を頼んだ。なぜか構内で暮らしている、アニメオタクの駄目人間に。

 

【感想】

 高校を舞台にした学園ミステリー。その嚆矢(こうし)は文庫の解説を務めた辻真先の「仮題・中学殺人事件」や「盗作・高校殺人事件」などか。アニメ創成期にも活躍した辻真先が、このアニメネタ満載の解説をするのは何ともはまり役(年の差何と59歳!)。

*とても懐かしい、「読者が犯人」とした学園ミステリーの先駆的作品(1972年)。

 

 ラノベのキャラに出てくるような登場人物が、サブカルの話題を繰り広げる作品の内容は、純粋なロジックを追求した本格推理。真実よりもお金、アニメ系グッズ収集が最優先事項のオタク・愛染天満が、(意外と世渡りも上手なところを見せながらww)捜査を進め、情報を集めていく。そして1本の傘から導き出すデータと、それに基づく推理は豪華絢爛。クイーンの「オランダ靴の謎」を彷彿とさせるが、情報量は格段に多い

 

nmukkun.hatenablog.com

*1つの物証から様々なデータを引き出す、クイーンを模したロジックを突き詰めた作品。

 

 まず傘が犯人の持ち物といる結論を導き出す推論。朝から学校にいた人、早退した人、遅刻した人を次々と消去していき、持ち主が犯人であることを絞り込んでいく。続いて容疑者・佐川奈緒に対しての考察で、容疑者のものでも、容疑者の偽装工作でもないことを推論。最後になぜ傘が置き忘れられたかの考察から、密室状態から犯人が抜け出したトリックも浮かび上がらせて、真犯人を1人に特定していく(私は、傘を置き忘れる「必然性」が弱いと思っているが、これは人それぞれでしょう)。

 そして事件が解決してからが、またいい。卓球部の先輩を助けるために一途に捜査に協力した柚乃への一言。そして事件の「真相」に対しての対応は、突如オタクが大人に変貌、アニメによくある主人公の成長物語になっている。アニメネタのツッコミは半分も拾えなかったが、ミステリーとしては申し分ない。

 その後愛染天馬と「風ヶ丘高等学校」シリーズは、「水族館の殺人」、短篇集「風が丘五十円玉祭りの謎」「図書館の殺人」と続き、また短篇集やエッセイなど、分野を広げて活躍している。

 実は私は、本作品の舞台となっている「神奈川県立風ヶ丘高等学校」(のモデルの学校)出身である(作者が生まれたのが、私の高校卒業後というのが悲しい)。防犯カメラは当時あるわけがなく、学校の見取り図を見ると方位なども多少変更されているが、縦に3列に並んだ校舎や、殺人現場となった旧体育館や渡り廊下、食堂などの配置は当時と変わらず、とても懐かしい思いを感じながら読んだ。

 24時間校舎に住んでいる酔狂な生徒はいなかったが、部活に出るために午後から登校する猛者や、夜中に学校に侵入して夜桜見物をする「男女」もいて、結構好き勝手をしていた(人もいた)。そして当時は、「風ヶ丘高等学校」がいくつかのテレビドラマの撮影舞台になっていたことを思い出す。

 作風は異なるが、論理が突出した構成から「平成のエラリー・クイーン」と呼ばれた作者。令和になっても「後輩」にはそのロジックに切れ味のある作品を、発表し続けてくれるよう、影ながら応援します。

 

*短篇集。「もう一色選べる丼」は、私もよく世話になった学食の話です。