小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14 三人の学生 (帰還)

【あらすじ】

ホームズとワトソンは、他の事件のためにロンドンを離れてある大学町に滞在していた。その町にある大学の、奨学金試験の問題用紙が何者かによって書き写された。問題用紙はギリシャ語長文で、ゲラ刷り3枚にわたるもの。用務員のバニスターが部屋に鍵をかけ忘れてしまい、その間に何者かが問題用紙に触ったという。問題用紙がほうりだされているほか、窓際のテーブルには鉛筆の削りくずがあり、書き物机に3センチほどの切り傷がいくつかと粘土の小さな塊が残されていた。

 試験を受ける3人の学生は、同じ建物の2階に住むスポーツマンのギルクリスト、3階に住むインド人のダウラット・ラース、4階に住む秀才だが怠け者のマイルズ・マクラレンである。ホームズはまず用務員のバニスターに事情を聞き、それから3人の学生に話を聞く。

 翌朝、ホームズは事件の真相を解明するため、バニスターをもう一度呼ぶ。その後、試験監督を務める講師のヒルトン・ソームズに、真犯人とされる学生を呼びにやらせた。

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【感想】

 短編集「帰還」では、学校にまつわる作品が3篇もある。そして他の短篇集にでは、学校を前面に押し出した作品はない。一度思いついたら、立て続けにアイディアが沸いたのだろうか。他の二編は、事件の内容が「誘拐」と「失踪」だが、本作品は学校らしく「カンニング」を題材としている。

 大学名をはっきり書くのは「礼儀知らず」とワトスンは書いているが、容疑者の一人は運動競技で大学の代表である「ブルー」に選ばれた情報を入れているので、これは普通、オクスフォード大学ケンブリッジ大学に限定される。

 背の高さが犯人特定の一つというのはちょっと単純だが、それだけではない。またこの「事件」は、犯人の意図しないところで、第三者が証拠に手を加えて、捜査を混乱させているのが特徴。このパターンは、のちのミステリー界で手を変え品を変え、様々なバリエーションで使われることを考えると、本作品は貴重に思えてくる。そして第3者が証拠に手を加えた動機も、短編の限られた紙数のなかで、不自然なくまとめてる。

 容疑者の一人の父親が、「競馬で破産した、あの有名なサー・・・」としている。「サー」の称号を持って競馬で失敗するのは、賭け事ではなく競走馬の厩舎経営のような気がするが、「ブラック・ピーター」で出て来る失敗した銀行家の息子と似た設定。本作品の息子にも、作家ドイルは暖かい目で描いている。

 ちょっと軽いと思われる「カンニング」を題材とした物語だが、味わいは意外と深い。なお後年、エラリー・クイーンは、「ややサイズを小さくして」この作品を連想させる短編を書いている。