小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 ブラック・ピーター (帰還)

【あらすじ】

 「ブラック・ピーター」ことピーター・ケアリー船長が、銛で一突きにされて殺されたのが自室で発見された。現場にはケアリー船長と同じ「P.C.」のイニシャルの入ったたばこ入れと、株券のリストが書かれ、「J.H.N.」のイニシャルが入った手帳が残されていた。

 ホームズとワトスン、そしてホプキンズ警部は犯行現場の小屋を張り込む。その晩、一人の痩せた弱々しい青年が小屋の鍵をこじ開けて入ってくる。彼はジョン・ホプリー・ネリガン(J.H.N.)といい、父が持っていた株券がなぜケアリー船長の手元にあったのか、ケアリー船長から証言を得ようとしていたという。

 ホプキンズ警部はネリガンをケアリー船長殺人の罪で逮捕するが、ホームズは彼のような痩せた青年が船長を銛で突き殺すことなどありえないという。真犯人は別にいるというのだ。

 

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【感想】

 何とも激しい幕開けである。朝の運動に「つるされた豚に、モリで突き刺していた」とのたまうホームズ。そして依頼された事件は「広い胸の中央には鋼鉄製のモリが突き立てられ、その先は背中を突き抜けて、壁の板に深く突き刺さっていた・・・まるでピンで止められたカブトムシのよう」な殺人現場。

 そして被害者は、アザラシ捕獲船(!)の船長。大酒を飲み、暴れると手がつけられず、妻や娘、引いては近所の老牧師まで暴力をふるい警察沙汰になるため、周囲から「ブラック」と呼ばれた人物(日本流に言うと「悪太郎」だね)。いつもと物語とはちょっと毛色が変わった設定になっている。

 そのため、容疑者のネリガンは普通なのに弱々しく見える。経歴も、父親が大きな損失を出して取引会社にも大きな影響を出し、失踪した銀行家という。事件の関連も、父親が保管していた株券の行方の鍵を握っているケアリー船長に、事情を聞きに来たというのだ。

 ホプキンズ警部もまた、間違えた犯人をまず逮捕する(笑)。このパターンはもはや、ホームズの推理を際立たせるための「伝統芸」(ダチョウ倶楽部か!)の域に達している。

 そしてホームズの出番。得意の「犯人をおびき寄せる」やり方で罠をはるのは相変わらず見事だが、逮捕の瞬間はまた激しい。作者ドリルが思う海の男の印象はこういうものなのか?

 真犯人から語られる真相はやや悲劇。最初の容疑者の父親の運命と、「ブラック・ピーター」の冷酷な性格。容疑者のネリガンに同情してしまうが、ある意味「敵討ち」の形。なるべくしてなった結末だろう。

 ホームズ物語は、被害者にしろ加害者にしろ、悪人は悪人としてはっきりと書かれている場合が多い。今回の物語もその一つで、それが題名として押し出していて、印象を強くしている。

 *いつもは金曜日ですが、ちょっと前倒しで記事を掲載しました。