小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

5-1 虹の刺客 小説・伊達騒動 ① 森村 誠一(1993)

【あらすじ】

 戦国の梟雄、伊達政宗の孫にして伊達家三代目藩主の伊達綱宗は、祖父譲りの奔放豪気な性格で、吉原一の大夫と評された薫に入れ揚げて巷で評判になる。一方伊達家は家臣団とは別に「一門衆」が勢力を有していたが、中でも政宗の10男で一ノ関3万石の領主の伊達兵部宗勝は、伊達宗家の藩主の座を狙っていた。

 

 その伊達兵部の野望を利用しようとしたのが、「下馬将軍」と呼ばれて4代将軍家綱を凌ぐ権勢を誇った大老酒井忠清。養女を兵部の嫡男に輿入れさせ、遊興に耽る網宗を藩主の座から引き下ろし、伊達家を分割して外様大名としての力を弱める。あわよくは伊達家を取り潰しとして、その成果を背景に名実共に将軍家を凌ぐ権力者にのし上がろうと、様々な策謀を巡らす。

 

 21歳の若い綱宗の乱行は収まらず、伊達兵部はお家大事の大義名分により様々な策略を巡らして、綱宗を隠居に追い込み、藩主の座から退かせることに成功する。嫡子亀千代はまだ3歳だが、藩が後継として幕閣に届けるも大老酒井忠清は、藩主として適当な年齢を有する政宗の血筋、即ち暗に伊達兵部に再考するよう、取り下げる。

 

 幕府の威には従うしかないと、伊達兵部を後継にする意見に流れる中、家老の原田甲斐は断固として反対し、亀千代を世継ぎとして伊達家の意見を固めてしまう。原田甲斐も伊達家中で権力を握る野望を抱くと共に、若くして謹慎となった綱宗の再復帰を願い、幼い藩主の亀千代の養育に心を配る。その過程で伊達兵部と酒井忠清の野望を察知していた。

 

 隠居に追い込まれた綱宗に対して、吉原通いを制止しなかったという理不尽な理由で、取り巻きの家臣が謀殺される事件が起きる。殺害された1人の子、畑虎之助原田甲斐に庇護されると、甲斐から未だ綱宗が通う吉原の大夫・薫の殺害を命じられる。薫を見張っていた虎之助だが、次第に薫の女性としての魅力に心を奪われ、薫を守るために命を破って駆け落ちしてしまう。

 

  *伝・原田甲斐(江戸ガイドより)

 

 同じく斬殺された家臣の孫娘のたよ。剣客として名高い伊東七十郎は、盟友の上杉藩士福王子八弥にたよの保護を求める。藩主上杉綱勝の近習頭として活躍する福王子八弥にたよは心を惹かれるが、藩主綱勝は毒殺され、突然の死によって上杉家は30万石から14万石に減封される。近習頭として藩主の暗殺を許し、国禁で殉死も許されず、厳しい目を向けられていた八弥は、耐え難く上杉家を致仕して高野山で出家する。八弥を慕うたよは、高野山の麓で働きながら、福王子八弥を待つことを決意する。

 

 直情径行の伊東七十郎は、伊達兵部の企みにまんまと陥り、原田甲斐を追い詰める策略の役割を知らずに担う。七十郎の行いを伊達兵部の企みと知った甲斐は、何とか七十郎の恨みをかわしたが、反対に怒りを抱えた伊東七十郎は、兵部を討つ準備をするも捕らえられて、罪人として非業の死を遂げる。

 

   盟友伊東七十郎が無念を抱えて非業の死を遂げたことを知り、福王子八弥は仇を討つべく高野山から下山する。麓で働いていたたよを連れて仙台藩へ向い、伊達兵部宗勝の命を奪おうとする。

 

  伊達綱宗ウィキペディア



【感想】

 ミステリーの江戸川乱歩賞でデビューして、「悪魔の飽食」でセンセーションを巻き起こした森村誠一は、創作活動を歴史小説にも手を広げた。忠臣蔵新選組を中心とした江戸時代の物語を始め、太平記平家物語も扱い、森村誠一流の「史観」を著している。

 本作品は「伊達騒動」を題材にした物語で、これは山本周五郎が従来悪役とされた家老原田甲斐を、全ての悪名を受け入れて伊達家存続の犠牲となる美談とした「縦ノ木は残った」が有名だが、森村誠一はこの騒動をさらに重層的な物語に構築して、あらたな「伊達騒動」を読者に提示した。

 

 伊達家は政宗以来、一門衆と家老を中心とする家臣団の間で主導権争いを激しく演じ、思惑が入り乱れ派閥争いも交錯して、一触即発の状態に陥っていた。その頭目である伊達兵部宗勝はともかく、原田甲斐も本作品ではただの正義漢ではなく、野望も抱く脂ぎった家老として、2人共に2つ先、3つ先を読んで企みを巡らす「策士」として描いている。

 本来の「主役」はこの2人だが、森村誠一はこの舞台に3人の剣客を登場させて、物語に彩りを添える。

 伊東七十郎は伊達家の名門家臣の流れを汲む、全国的にも名高い剣各だが、伊達兵部の好計に嵌まって罪人として罰せられて、伊達兵部に恨みを残したまま命を落とす。

 伊東七十郎と盟友でもある上杉米沢藩士の福王子八弥は、少女のたよを伊東七十郎から託されたが、上杉家藩主の毒殺を阻止できず、高野山へ赴き出家する。しかし七十郎の非業の死と無念を知り、策謀渦巻く現実の世に戻る決意をする。

 

  伊達綱村ウィキペディア

 

 そして畑虎之助。隠居となった3代藩主綱宗の復権を願う原田甲斐が、その邪魔になる吉原の大夫、薫の暗殺を命じられる。薫に心惹かれ、ついには2人で駆け落ちしてしまう。元々は綱宗と薫を離すことが目的であり、駆け落ちによって目論見は違う形で達成できたが、果たしてこのあと、どのように物語と絡んでいくのか。

 

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