小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

8 村上海賊の娘 和田 竜(2013)

【あらすじ】

 瀬戸内海の海運を握る、村上天皇の末裔と言われる村上海軍。その中でも勢力を拡大している能島村上家の当主村上武吉に、毛利家は大坂本願寺への兵糧米10万石の輸送を依頼する。武吉は娘の景 (きょう)を毛利水車を束ねる児玉就英の嫁にするならば、毛利家に味方すると放言する。

 

 は海賊船を乗っ取るほどの跳ねっかえり娘で、目と口が大きく肌は真っ黒。地元では醜女として通っていて、20歳になっても嫁の貰い手がない。景は美丈夫の児玉就英との縁組みを望むが、条件の出し方に起こった怒った児玉就英は、その場で輿入れの話を断ってしまう。

 

 廻船が能島村上の領内に侵入した際に景が乗っ取りをすると、廻船の中には一向宗徒の信者たちが乗り込んでいた。門徒たちは、織田信長に包囲されている大坂本願寺で、兵士として戦うために大坂に向かっていた。門徒源爺は彫りの深い顔立ちの景を、南蛮人のように美しいと称えた。源爺から大坂本願寺まで送ってほしいと頼まれた景は、共も連れずそのまま大坂本願寺へ向けて出航する。

 

 大坂に着いた景は、泉州眞鍋海賊に属する大男の眞鍋七五三兵衛に捕まるが、海賊の流儀により釈放され、源爺たちを大坂本願寺方の木津砦に送り届けた。その後織田軍による攻撃が始まり、源爺が目の前で殺される光景を見た景は、戦場が思っていた理想とかけ離れていることを知る。

 

 失意を抱えて景は能島へ帰り、父武吉の言う通り、戦闘から離れて船に乗るのもやめて、輿入れすることに承諾する。その頃毛利方千艘が米を積んで大坂本願寺に向かうことを知った景は、織田軍を見たら引き返すだろうと悟る。極楽往生を元々約束されている一向衆徒は、兵糧が底をついても戦い続けることは明らか。そう思うと、家の為に戦う武将や海賊とは違う考えの宗徒を助けたい思いが、景の心に湧き上がる。

 

*「やはり」マンガにもなりました。

 

 そんな景を父武吉は、戦船に女が乗り込む「鬼手」として送り出す。日和見だった毛利方も「鬼手」景の意気込みに引き込まれて、木津川で防御を引き、かつて同じ海賊仲間として交わった泉州の眞鍋海賊を相手に対峙する。敵将は巨漢、眞鍋海賊の若き当主、七五三兵衛。毛利軍に対して300隻しか持たない不利を承知で、こちらも家の誇りにかけて戦いを挑む。

 

 半日に亘る船の戦は、乗っ取りもあり接近戦で血の臭いが漂う凄惨な戦場となる。そんな中景は戦いで傷つき、命の危機に遭遇しながらも戦いが進んでいく。村上海賊側が優勢になった時、眞鍋七五三兵衛の巨漢が立ちはだかる。瀕死の傷を負い、景を道連れに海に引きずり込む七五三兵衛に対して、景は海中で死を覚悟するが、最後は自分の中にあった、生きようとする力に救われる。

 

 

 

【感想】

 天下統一の仕上げ、小田原北条攻めの外郭である忍城の攻防「のぼうの城」を描いてデビューした和田竜が、今回は石山本願寺織田信長の11年戦争の中で、半日で終わり織田軍が敗退した第一次木津川戦を描いた。前作「尻啖え孫市」で登場した鈴木重幸は、ここでは主人公の景に助けられて、一度は雑賀庄に退避したが、木津川の戦いで景に頼まれて加勢すると描かれている。

 但しそこに至るまで、村上海賊眞鍋海賊の2つの海賊を描いて、陸戦とは違う海の男たちの「人となり」を充分に際立たせたあとに、敵味方に分かれて戦う凄惨な戦場を描いている。中でも両者が和解した直後に、敵方の眞鍋海賊の面々に頼まれて、毛利方の乃美宗勝が延々と厳島合戦の自慢話をする場面には「ほっこり」。海賊同士の不思議な連帯感を醸し出している。

 その中でのヒロイン、景。当時の美的感覚からすると醜女の大女の設定だが、目鼻立ちがはっきりとしてボディラインも「メリハリ」があり、現代的な美女を想像させ、魅力を感じさせている。周囲の「出来上がった」歴史上の人物たちに囲まれて、様々な困難にぶち当たり、途中で挫折を経験しながらもそれを乗り越えて成長していく物語。

 そして最後に立ちはだかる敵将、眞鍋七五三兵衛との戦いに打ち勝つ姿。本作品の想像上の人物だが、まるで少年ジャンプの主人公のように「友情・努力・勝利」を演じている。そして最後に「にっと笑う」姿はマンガのラストシーンにピッタリ。

 その後第二次木津川戦では、信長は有名な「甲鉄船」を用意してリベンジを果たす。これにより毛利軍は兵糧輸送を断念して本願寺の抵抗は弱まり、4年後には信長に大坂を明け渡す。毛利の諸将も海賊も、信長そして秀吉の天下となると、自由気ままな動きができなくなった。本作品もその後点描のように、景は黒川という男に嫁いだが、その後はわからないとして話は結ばれる。

 

 「娘の父」村上武吉は、城山三郎の名作「秀吉と武吉」に描かれている。戦国時代に一斉を風靡した村上海賊も、世が定まると「海賊停止令」が出され、陸上の兵農分離と同じような制限を受ける。徳川の世になると海賊は消滅し、村上家は毛利家の家臣に組み込まれ、その後武吉は達観した生活を送り、世を去る。

 しかしその300年後、日露戦争で海軍参謀秋山真之は、武吉が著わしたとされる水軍の兵法書を参考に日本海海戦の作戦を立案する。これによって、村上海賊の戦法は日の目を見ることとなった。

 

 

 よろしければ、一押しを m(_ _)m