小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13-1 反逆①(荒木村重) 遠藤 周作 (1989)

【あらすじ】

 摂津国池田家の家臣だった荒木村重は、主君を裏切り下剋上を果たして茨木城の城主となった。しかし大国に囲まれて、新たに主君を選ばなくては国を存続できない。村重は日の出の勢いがあった織田信長に誼を繋ごうとするが、比叡山を焼き討ちしたこと、親類縁者であっても尾張統一のために殺害を繰り返すなど非情な行為を聞き、信長を主人とするべきか決断ができなかった。

 

 迷う村童に対して木下藤吉郎がやって来る。摂津一国を与えるとともに信長の最愛の室、生方の娘  だしを嫁がせると提示され、村重は信長に従う決意をする。しかし信長と謁見した村童は、日本刀に刺した蝕頭を食べさせる屈辱的な待遇を受け、それが心に澱 (おり)のように残る。しかし村重に嫁入りしただしは、村重に尽くし、そして将来信長をも凌駕するとして夫を励ます。

 

 摂津一国を領した荒木村重は、織田のために石山本願寺と戦うが、毛利輝元を後ろ盾とする一向宗門徒に苦戦する。その間に上杉謙信が動き、松永久秀が謀反を起こし、織田信長は窮地に立たされた。信長は村重に本願寺との和睦交渉を命じるも、不首尾に終わり信長は不機嫌を隠さない。対して和睦交渉中に本願寺顕如の人柄に魅かれた村重の心に,主君への反逆を考えが芽生えだす。

 

 村重の心に、信長に対して複雑な思いが湧き上がる。信長が銃で傷を負い、戦に敗れたと聞けば、なぜかこみ上げてくる笑いをあわててかみ殺す。そこに村重に大和国松永久秀が接近する。信長包囲網の中で松永久秀は信長に反逆するが、村重は反逆にまで踏み切れない。孤立した久秀は信貴山に立てこもり、壮絶な自爆死を遂げた。

 

 そんな中、家臣の中川清秀石山本願寺と内通して、食料を渡していたことが発覚する。また信長を狙撃した杉谷善住坊の娘を匿っていたことあり、これらが信長に露見されると、信長の性格から村重も命の危険を感じて、不安に襲われて夜もおちおち眠れなくなる。追い詰められついに謀反を決意する。

 

  荒木村重ウィキペディアより)

 

 有岡城に籠城した村重。最初は明智光秀羽柴秀吉、そして顔見知りの小寺(黒田)官兵衛らが翻意を促すためにやって来るが、一度裏切った者を信長が許すとは到底信じることができない。だが「信長包囲網」に苦しんでいた信長の情勢は、次第に好転していた。

 

 木津川の海戦で織田水軍が毛利の村上水軍を破り本願寺への糧道を断って、本願寺の抵抗も徐々に弱まっていた。毛利本軍も織田と全面対決には踏み切れない。村重と同じ気持ちだったはずの高槻の高山右近は、悩みつつも織田信長に屈して投降し、家臣の中川清秀も信長に寝返った。

 

 叛旗を翻した村重だが、徐々に孤立して苦しい立場に追い込まれていった。そんな中でも妻のだしは村重を信じ、そして村重の決断にあくまでもついていく。 

 

 *中川清秀本能寺の変の後羽柴秀吉に味方しますが、賎ヶ岳の戦いで佐久間盛政の「中入り」に遭い戦死。但しここで退却せず抵抗したことで戦局を変え、秀吉の勝利をもたらしました。

 

【感想】 

  「この世に神も仏もいない」と看破した、松永久秀を主人公とした作品を取り上げた次に、カトリックの洗礼を受けている遠藤周作の作品に移る。遠藤周作歴史小説においてはキリシタン大名として有名な大友宗麟を描いた 「王の挽歌」が有名だが、このブログでは大友家の家臣団に焦点を当てたために取り上げなかった。そして遠藤周作には傑作「沈黙」がある。

  「沈黙」の内容は、キリスト今日を禁教としている江戸時代の日本に、高名な神学者が布教に赴いたが、日本で棄教したと噂される。弟子はそのことが信じられず、ポルトガルから日本に渡るが、キリストの教えを捨てなければ信徒たちを拷間にかけて殺すと脅しをかけて、宣教師たちを追い込んでいく。そんな状況に追い込まれても、神は沈黙したままであった。しかし神は皆と一緒に苦しんでいた

 織田信長は江戸時代の役人と似たような脅しをかける。信長は村重の盟友でもあるキリシタン大名高山右近に対して、自分に従えば信徒への保護を続けるが、信長の命令に従わずに村重と同調して反逆した場合は、キリシタンの権利を奪い、皆殺しにすると通告する。このため右近は村重と距離を置かざる負えなくなる。

 

  高山右近(高槻観光協会より)

 

 足利義昭松永久秀も、自らが反逆をすることで周囲が付いてくると信じるが、実際にはなかなか反逆に踏み切る者はいない。それは本編の主人公である荒木村重も、そして下巻の主人公である明智光秀も同じ目にあう。では反逆に踏み切る者と留まる者の違いはどこにあるのか。

 遠藤周作は宗教家の目を持って、登場人物の内面の動きをつぶさに観察し、細かく描写して反逆へのプロセスを描く。そしてその心を動かす「媒体」として、織田信長といく強烈な磁力を持った人物を用いた。信長という絶対的な存在、生殺与奪の権を有しているかのような果断と振る舞い。そして家臣たちは恐怖におびえながら、懸命に働いていく。

  そんな「恐怖政治」は長く続かないと松永久秀は言う。しかし皆がそう思っても、それを止める者はいない。そのためには永遠に続くと思われる「競争」に勝ち抜くしかないのか。そこには信長への畏怖と同時に、憎しみも抱える家臣たちが、1人また1人と出世競争から脱落して、反逆者を生み出していく。

  そんなブラック企業」に勤めた男たち。その影響は妻や家族たちにも及んでいく。

 

有岡城の籠城で捉えられた黒田官兵衛荒木村重が、探偵とワトスン役を演じる「不思議な」歴史小説です。

 

 よろしければ、一押しを m(_ _)m