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短編集と警察小説の両方の先入観を打ち砕いた作品。短編なのにこれだけ厚みのある作品がまとまっているのに驚き、そして事件を追うのが主体の警察小説で、刑事たちの嫉妬や競争、焦りや苛立ちなどを生々しく、感情を隠すことなく描き出す迫力には圧倒された。
以下、各作品を簡単に紹介します。
【沈黙のアリバイ】 捜査一係 朽木泰正班長が主役
強盗殺人の被疑者が裁判で、自白を翻し容疑を否認する。取り調べで語らなかったアリバイを初めて主張し、担当取調官の落ち度が取り沙汰される中、朽木は被疑者の薄笑いを見て犯行を確信する。警察が不利となる緊迫した状況の中で、「笑わない男」朽木が反転攻勢に出る。最後はスカッとした解決。
殺人事件の時効を目前にして、被害者家族の周辺の張り込みを続ける二班の刑事たち。被害者家族の娘は殺人犯の子供でもある。殺人犯が海外渡航を差し引いた第二の時効期間中に被害者家族と接触する可能性を信じるが、第二の時効は完成する。そして時効成立と共に鳴り響く電話。
殺人犯の心の隙と法の盲点を突く、元公安刑事・楠見の冷徹さが際立つ。こちらもどんでん返しが用意されていて、終盤は息を飲んで読み続け、終わって大きなため息をつくような作品。
【囚人のジレンマ】 捜査一課 田畑課長が主役
3件の殺人事件に追われる捜査第一課。ライバルである朽木、楠見、村瀬の三人の班長は、課長田畑の指示を無視して事件を追いかける。班長達のライバル心むき出しな選考を苦々しく思いながらも、結果を挙げている3人に対して表立って叱りつけることができない。中間管理職の辛さを味わっている。
ラストの救いと、犯罪者に対する題名を捜査一課長にシンクロさせたのが見事。
【密室の抜け穴】 捜査三係 村瀬透班長が主役
殺人の容疑者は矢野が、張り込み中のマンションから姿を消す。三班と暴力団対策課の合同捜査中で、責任者は班長代理の東出。捜査会議には東出と同期の三班石上、そして暴対課の同期氏原もいて、嫉妬や意地も交じり、次第に責任者の東出を追及する流れに。そこへ脳梗塞で倒れていた村瀬班長が登場。村瀬はこの密室の謎を「会議室で」見事に解き明かす。
【ペルソナの微笑】 捜査一係の班員 矢代が主役
ホームレスの男が青酸化合物で毒殺される。一班の矢代が朽木班長の指示で向かった先は、13年前青酸毒物で主人を殺害された遺族。当時犯人は子供を使い父親を殺害された。矢代も無意識の内に殺人の関与をさせられた過去があり、トラウマの裏返しで普段は「おちゃらけた」態度を取っていた。
同じ経験を持つ子供と向き合う矢代は、心の奥底に閉じ込めていた封印を解く。そしてその過去を知った上で敢えて指示を出す朽木班長。最初は班長が主役でなく残念と思ったが、「強烈な」作品。
【モノクロームの反転】 捜査一係と三係の合同捜査
一家3人が惨殺される事件が発生。田端課長は、朽木班と村瀬班の合同捜査を指示する。相乗効果を狙ったが、ライバル心むき出しの2つの班は協力するどころか、現場への先陣争いを初め、それぞれの捜査で競争を繰り返して溝を深めるばかり。捜査一課の「先任」と言える朽木班長はある手段を取る。
読んで息が詰まるほど密度が濃い短編集だが、横山作品は他の作品群も登場人物の内面に潜む感情描写が秀逸。「半落ち」も素晴らしいが、D県警シリーズの「陰の季節」、「動機」そしてちょっと毛色の変わった「顔」もそれぞれインパクトがある。また「64」はリアルすぎて途中で読むのを断念しようかと思ったほどの作品。読むと読者が「リーディング・ハイ」、無酸素運動になる作品が並んでいる。
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*警察小説ではありませんが、こちらも傑作です。