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・レッスンI「スターアニスと命題論理」
「毒殺と事故死を論理的に見分けることは可能か」。八角(スターアニス)入りカレー料理を食べて毒殺され、豊富な植物知識を持つ清楚な花屋探偵、藍前あやめが動機を重視して見事解決した事件。主人公の20歳の大学生森帖詠彦が、探偵の叔母「硯さん」に事件の検証を依頼するが、硯は数理論理学を駆使した華麗なロジックの展開により、1人の「ウソ」と、事件の真相を暴く。
・レッスンII「クロスノットと述語論理」
多すぎる容疑者の中から「ネクタイ」をヒントにロジックで犯人を指摘した、「思考機械」探偵、女子大生、中尊寺有が解いた謎を硯さんが検証する。命題の「対偶」は全て真とは限らないという「真理」を使い、それまで見えていた風景を一変させて、「クロスノット(ネクタイの巻き方)」による真犯人を推測する。「XならばYである」。Yを特定させてXをいくつにも置き換えることができる述語論理。
・レッスンⅢ 「トリプレッツと様相論理」
雪に囲まれた中での足跡が残る殺人現場。そして容疑者として浮かぶ双子。但しそのどちらかの犯行でも、そして共犯でも矛盾が生じる事件を、「その可能性はすでに考えた」探偵、上苙丞が解決する。その事件を、硯さんは「どんな状況でも絶対成り立つ事実と、限定的に成り立つ事実を区別して考える」様相論理から、その矛盾を解消した新たな事実を提示する。
・進級試験 「恋と禁忌の……?」
新たな事件を依頼する詠彦。対して硯さんは、それまでの展開からこの物語の真相を指摘する。
*全ての可能性を否定するため、犯人がいなくなってしまう? 新しいミステリィの形を描く。
【感想】
「独身アラサー美女目当て」というトビラの宣伝文句に見事に引っ掛かって(?)手を取った本。しかしその舞台は、前回取り上げた「眼球堂の殺人」に続いてメフィスト賞受賞作品にして、かつ理系ミステリィが更に「超絶的に」進化したシロモノ。
超高偏差値女子高校からT大へ進学し、在学中に出した論文に目が留まり、請われてフランスの研究機関へ行くと、そこで革新的な研究を成し遂げて、そのままフランスの金融機関に就職する。何年かで日本の平均的サラリーマンの生涯賃金の数倍以上の蓄財を成し、悠々自適のセミリタイア生活を送っているハイスペックな天才美人学者にして、アラサーの独身探偵、硯(すずり)さん。
対して甥っ子の詠彦は「叔母さん」が眩しく見える。そんな気持ちを知って知らずか(わからないはずがない)、甥っ子の女性関係には鋭くツッコみ、自分についてはとことんボケるちょっとガサツな女性。(古いけど)「めぞん一刻」の管理人さんと、エヴァンゲリオンの葛城ミサトを足したようなキャラ。
そんなボケとツッコミに絡めて、余りにも高度で複雑な数理論理学を交えて装飾された物語。論理構成を数々の数式やパターン表、そして公理に基づく形式的証明をまとめるのは「ため息がつくほど」素晴らしい(そして本当の素晴らしさは、私には永遠にわからないだろう)。また強烈なキャラを探偵役として各編に配置して事件を解決させ、その事件をひっくり返す「多重推理」の饗宴にもなっている。特にレッスンⅡは、エラリー・クイーンのある作品も思い出されて、思わずニヤリ。
「眼球堂の殺人」では数学の世界に対する有利性の証明をテーマにしたが、本作では更に進んで、数理論理学を駆使して、真実を全て演算できるとしている。対して大半の読み手は、ミステリィ界の「古典論理」と「直感主義論理」(=読書経験とヒラメキ)によって対抗する。それは時にTRUEで、多くはFALSEになる。要は、ミステリィは面白ければよいのだ。
とは言え「独身アラサー美女」硯さんは私のツボ。残念ながら硯さんの登場はこれ1作で、その後は「その可能性はすでに考えた」上苙丞が探偵役を引き継いでいる。見事な物語を「妄想」する才能を持つ甥っ子の森帖詠彦が、ワトスン役となるシリーズを作ってくれないものか。
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*「トリック返し」によって事件が起きる前に解決する? ひょっとしたら世界1の名探偵を描く。