小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

4 人狼城の恐怖 二階堂 黎人 (1997)

【あらすじ】

 「人狼城」は独仏の国境の峻嶮な渓谷の上に屹立する古城。城主は「人狼」に惨殺されたという伝説も残る城。そして「銀の狼城」と「青の狼城」の2つがある。

 1970年西ドイツの製薬会社が10名の客をこの城に招待した。招待客は伝説の真偽を尋ねるが、城の持ち主は、それこそ伝説に過ぎないと否定する。

 同じ時期、フランスの「アルザス独立サロン」のメンバーは、独立活動のため金銭的な援助を受けようと「青の狼城」の城主に会いに行く。そしてメンバー内で第二次世界大戦の末にナチスが生み出した「星気体兵団」「人狼」と呼ばれる恐ろしい秘密兵器にまるわる事件も起きて、パリ警察の警部も追っていた。

 そして「銀の狼城」と「青の狼城」で伝説を地でいくような連続殺人事件が発生する。

 

【感想】

 1冊でも分厚いのに、それが全4巻である(「ドイツ編」,「フランス編」,「探偵編」,「完結編」)。本屋の棚を威圧するような存在感でもあり、読み切れるか自信がない。気になりつつも手を出す勇気がなく逡巡する日が続いた。そしてようやく第1巻「ドイツ編」だけ購入。面白く無かったら「ギブ」しようと・・・・

 翌日、自分の書棚には全4巻が揃っていた

 

 これだけ長大な物語だが、読み始めると止まらない。作者が巻末で書いているが「ドイツ編」と「フランス編」は城と内容、そして雰囲気を共に「相似形」に見せて、微妙に違っているところが見事。このちょっとした「さじ加減」が、この長大な物語を読み進めるのにうまく作用して、またトリックなどにも生かされている。そして両編とも怒濤のように繰り広げられる連続殺人事件で、瞬く間に登場人物が1人1人消えて行く。その破壊力はまさに上杉謙信川中島の戦いで用いた陣形「車懸り」の戦術で、勢い余って読者までなぎ倒される(?)

 次々と起こる連続殺人事件。1つ1つ考えていくが、完全に「なぎ倒されて」途中でギブ。但しその内の1つは、推理小説を読んで中学の時に私が初めて考えたトリックが使われていたために印象深い。但し私はトリックだけで、どのように使うかをうまく練られなかったが、本作品では「鉄槌一撃」のような強烈な「使用方法」であんぐり。いや、これでは創作活動はできませんと思ったもの。

 

 本作品は個々の殺人事件もあるが、「人狼城」の謎も大きなテーマになっている。お互いに見渡せる「銀の狼城」と「青の狼城」の謎だが、これは何となくイメージは湧いた。但し物語の最後で明かされる、城の中で起きるおぞましい惨状を「外」から眺めるのを想像すると、トラウマにもなりかねないインパクトが植え付けられる。

 二階堂蘭子が最後に犯人と対決する場面。犯人に対し蘭子が「彼らの肖像画は、あなたの容貌によく似てますわ」と言う場面は、コナン・ドイル「バスカヴィル家の犬」を思い出させる。「ハーメルンの笛吹き」やユダヤ教、そしてナチスにかかる衒学趣味(ペダントリー)を駆使して、独特のこの壮大な物語に、魅惑的な装飾をまとわせた。そして最後は、作者が信奉するカーの名作のオマージュで締めくくる。これだけ長大な分量を1つの物語で貫くのはすごいが、それを一気に読ませる手腕は、何物にも例えられない。二階堂蘭子の特異なキャラクターも十分生かし、かつ後の作品にも繋げた「傑作」。

 

 「双頭の悪魔」に続く、栄えある「喜国雅彦探偵小説大賞」受賞作(ちょっとくどいか?)。その名に恥じない、いろいろな意味で「空前絶後」のミステリーは、全4冊の本のように「ミステリー界を威圧する」存在感を見せつけている。

 

nmukkun.hatenablog.com

*作者が本作品でオマージュしたと思われる、カーの名作。