小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 眼球堂の殺人 〜The Book〜  周本 律 (2013)

【あらすじ】

 天才建築家・驫木煬(とどろき よう)が山奥に建てた巨大な私邸「眼球堂」。

 そこに招待された、各界で才能を発揮している著名人たち。放浪の天才数学者、十和田只人と彼を追い眼球堂へと辿り着いたライター、陸奥藍子を待っていたのは、奇妙な建物、不穏な夕食会、狂気にとりつかれた建築家・驫木。そして奇想天外な状況で発見される変死体。この世界の全ての定理が書かれた神の書「The Book」を探し求める十和田は、この奇妙な建物を取り巻く全ての謎を解き明かし、真実を「証明」する。

 

【感想】

 国立大学の建築学科出身で、綾辻行人に影響を受けたと公言する作者が、正面から「館シリーズ」に挑戦した。人間を主体に効率性を求めて作られる世の建物に対して、小説の上では「建物主義」、人間の目からすれば全く非効率で目的がわからない建物を建築し、そこで「起こるべき事件」を起こす。その手法は、影響を受けたもう1人、森博嗣の継承者たる「理系ミステリィ」からのアプローチ。

 そして登場人物も「半端ない」。探偵役にして今後の日本を背負うとまで言われながら突如失踪した放浪の天才数学者、十和田只人。助手役は駆け出しのルポライターながら、時折「片鱗」を見せる陸奥藍子。建築至上主義に取り憑かれた建築家、驫木煬。他にも精神医学者、芸術家、物理学者、政治家など各界の第一人者が集まり、衒学を披露する。そして主人公の十和田が「1000年に一度の天才」と称する、驫木煬の子供、善知鳥神(うとうかみ)の存在が作品全体を覆う。これはまさに「真賀田四季」の存在感

 

nmukkun.hatenablog.com

 

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*「理系」で「天才」を描く、本作品に影響を与えた作品2つ。

 

 本作の舞台、「巨大な私邸」は、直径40メートルの円形の建物を内包する、直径100メートルの窪地に作られた大理石の庭、そして庭に乱立する複数の白柱と不思議な作り。館の見取り図だけで興奮するミステリィマニアが多い中、期待に応えて「この設定でなければ」ならないトリックをやってくれる。

 そして実際に明かされるとその巧妙なトリックには唸らされる。まるで「本陣殺人事件」のように繊細で、「斜め屋敷の犯罪」のように大胆な「からくり」となっている。

 そんな破天荒な舞台で、天才たちが繰り広げる会話がまた凄まじい。思いっきり文系の私は、専門的な数学知識は置いてきぼりだが(「タクシー数」なんてわかるか!)、そんな会話にもいくつかの伏線を潜ませている。特に「ワトスン役」の陸奥藍子の役割は見事。

 そして事件が終わった後の「真実」。「S&Mシリーズ」の犀川と四季の関係が、突然ホームズ対モリアーティの構図に変貌し、次作以降に期待を持たせる、見事な「ひねり」を描いて着地している。

 次作では新しいキャラも登場して物語は広がり、「堂シリーズ」は合計7作続けて完結した。

 双孔堂の殺人〜Double Torus〜 は自分が犯人と指摘する。

 五覚堂の殺人〜The Burning Ship〜 は監視カメラで推理する。

 伽藍堂の殺人〜Banach-Tarski Paradox〜 は孤島で天才が集合する。

 教会堂の殺人〜Game Theory〜 の犯人は館?建物が人を次々と殺害する。

 鏡面堂の殺人〜Theory of Relativity〜 は過去の事件を推理し終幕に繋げる。

 大聖堂の殺人〜The Books〜 は天才数学者藤衛が隠した、最後の謎に挑む完結編。

 

 副題も森博嗣の「S&Mシリーズ」も意識したテイスト。特にシリーズ最終作の「The Books」は、本作品「The Book」と呼応させた形で、この壮大なシリーズの掉尾を飾るのに相応しい内容となっている。

 

*2014年に描かれた、新型ウィルスが襲う恐怖を描いた作品。