小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

殿堂1 赤毛組合 (冒険)

 兄の書棚にあったジュブナイル版「世界名作全集」。兄が全然読んでいなかったので勝手に順番に読んでいったが、ミステリーは怖いとの印象から、ずっと避けてきた「シャーロック・ホームズ」の巻。その本を取り出したのは小学6年の冬。寝る前にちょっと読むつもりが、読む手が止まらなくなり・・・

 収められていた作品は「赤毛組合」「まだらの紐」「唇のねじれた男」「白銀号事件」「海軍条約文書事件」の5つ。この5つの作品は、「殿堂入り」として自分の中で特別な作品となっている。 

【あらすじ】

 ホームズの元に訪れた人のよさそうな質屋を経営している赤毛の主人、ジェイベス・ウィルスン。彼から語られる話は、「赤毛組合」の加入から、辞書を写すのみで高額の報酬がもらえる不思議な仕事の話。そして突然「赤毛組合は解散した」との張り紙が出されるまでの不思議だが、余り事件性はない、やや滑稽味を帯びたもの。だがその話の中から、ホームズは何かを感じ取り、捜査を行う。

 

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【感想】

 まず、ホームズのジェイベス・ウィルスンに対する考察。「種を明かされれば、何でもないこと」と言うウィルスンと、それに対するホームズの感想に引き込まれた。ホームズ作品では常套(じょうとう)となる物語の「掴み」だが、ホームズの「言わなきゃよかった」の感想もいい。ホームズ(そしてホームズの後継者たち)は、事件の解決までかなりこの反省をいかしたが(笑)、私自身の人生では余り活用できませんでした。

 そして「赤毛組合」という不思議な組織。「赤毛トリック」と言われ、自身の作品も含めて後々のミステリーに影響を与えたアイディア。その時はただただ不思議な話としか思い至らなかったが、それでも後からからくりを説明されて、最初にこのトリックを思いついたドイルには脱帽。

 ウィルスンの経営する質屋とその周辺を捜査するホームズ。その中で、質屋で新しく雇われた従業員に道を聞く。そこでの2つの発言でだんだん事件の雰囲気が盛り上がってくる。「あの男のズボンの膝を見たかった」と「ぼくたちは、敵国に侵入したスパイだ」。

 丁度私がこの作品を読んでいる時間帯。ワトスンがベーカー街に向かうべく家を出て、そこで関係者一同が会し、事件が起こると思われる現場へ赴く。暗闇の銀行の地下室の中で何事かが起こるのを待つホームズ。突然見える光に息をのむ私。

 そして一気に事件は解決へ。後から思うと途中にサラサーテのコンサートを鑑賞するのはないだろうと思うが、このジェットコースターのような展開と、最初の話からは想像もできない事件の真相が語られた時は、すっかりホームズに心を奪われた。これを「パイプでたっぷり三服ほどの問題」と語るホームズはかっこいい!

 この作品の印象が強かったせいか、のちに中学で劇を行うとき、この作品を題材にシナリオを書いたことがある。その時私は、犯人の黒幕として、「名前の売れている」アルセーヌ・ルパンを設定した。のちに観たグラナダTV制作のドラマでは、モリアティ教授を黒幕に設定していた。同じ趣向を感じて何だか嬉しかったことを覚えている。