小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

10-2 天離(あまさか)り果つる国 ② 宮本 昌孝(2020)

 

【あらすじ】

 半兵衛の死後、羽柴秀吉に仕えて活躍する七龍太本能寺の変の後、賎ケ岳の戦い柴田勝家を破った秀吉は、市を連れてくるよう七龍太に命じたが、市は勝家と共に死を選ぶことを願う。秀吉はその恨みを、命令に背いて市の願いを叶えた七龍太に向け、処刑の命を下す。竹中半兵衛と旧知で七龍太と面識があった金森長近は、処刑に立ち会うと黒田官兵衛の目を盗み、止めを刺さずに川に投げ込んで一命を救った。

 

 一方佐々成政に輿入れした紗雪は、成政の愛妾の嫉妬から密通の疑いをかけられ、牢に閉じ込められていた。そこへ身体が回復した七龍太が現れて、富山城から救出する。その頃佐々成政は秀吉に臣従することを拒み、抵抗する手立てを探っていた。徳川家康が小牧長久手の戦いで秀吉に勝利を収めたが、その後秀吉と和睦するのを見て、家康に秀吉と戦いを続けるよう説得するために、真冬の立山連峰を越える「さらさら越え」のルートをつかい、富山から浜松へ命がけで家康の元に向かう。

 

 

 

 *激寒の北アルプス立山ルート)を走破したと言われる佐々成政中日新聞

 

 逃げる七龍太たちは、紗雪の自然を熟知した知恵で、深い雪の行路を飛騨に向かって歩んでいく。追う形となった佐々成政は、必死の行軍で難路を突き進み、2組は山中で遂に鉢合わせしてしまう。逃げ場のない中で七龍太は、紗雪の密通の疑惑を晴らし、佐々成政の誤解を解く。紗雪や七龍太たちは帰雲城に戻ることも許され、逃避行は無事成功した。

 

 しかし城主内ヶ嶋氏理の正妻の茶之は、秀吉のお尋ね者でもある七龍太を匿うのは家の為にもならないと考え、七龍太を殺めようとする。その姿を、密かに訪れた紗雪が目撃してしまい、七龍太を守るために母と気付かすに殺めてしまう。仲が悪いとは言え、母を殺害して衝撃を受ける紗雪。

 

 内ヶ嶋氏理は、そんな沙雪に出生の秘密を打ち明ける。沙雪の本当の母は姉小路家の妙岳尼の妹で、茶之は嫉妬でその妹を殺害していて、本当は沙雪の仇だと語る。七龍太も、沙雪と兄妹と思い沙雪の恋心に対して冷たい対応をしてきたが、実は従兄弟で、実の母が妙岳尼であることを知る。内ヶ嶋氏理もその縁を喜び、茶之の喪が明け次第、婚礼を行うことを決める。

 

 正式に飛騨国主となった金森長近は、秀吉と石田三成の奸計により、一旦和睦した七龍太たちに攻撃を命じられるが、七龍太は見事に策略を見破り自らを守る。婚礼の日が近づいて城内も町も沸き立つ中、秀吉と家康の間が再度緊迫する。今度は家康から七龍太に軍師の要請がかかり、七龍太は飛騨の独立を条件に受け入れ、一時帰雲城を離れる。

 

 しかし七龍太が帰雲城を出立したその日、沙雪は自然の中に異常を感じる。そして七龍太が不在の折を狙った下間頼蛇が沙雪を襲い、絶体絶命の状態になった時、月が異様に明るく光り、大地が鳴動する。異臭が漂い積雪が割れて、そしてうねり、人間たちは突き上げられる。帰雲山は崩れて、一瞬のうちに城下町を飲み込んでしまった。

 

 

 *地震で崩壊し埋没した帰雲城跡とされる碑(ウィキペディアより)

【感想】

 「自然児」の沙雪に対して複雑な感情を押し隠す七龍太竹中半兵衛が言い残した話によると、沙雪とは (レイアとルークのように) 実の兄妹の間柄と思われ、結ばれない運命にある。紗雪の想いが痛いほどわかるために、いずれくる「破局」に遭遇する紗雪の気持ちをおもんばかる。

 そんな2人を「帝国の皇帝」豊臣秀吉が執拗に追いかける。市への思慕が断たれた無念さが、秀吉の幕僚として優秀だった七龍太に対して、「理不尽」な怒りを向ける。そして心ならずも柴田勝家の配下から秀吉に臣従した金森長近が、秀吉の命を受けて七龍太を殺める立場になってしまう。

 最初は処刑人として周囲の目を盗み上手く逃がすが、次は飛騨国主の立場で秀吉と三成の命により、やむを得ず「だまし討ち」をする。しかし七龍太は、半兵衛譲りの知略で金森長近を退けて徳川家康を味方にし、あくまで飛騨の独立をめざしていく。そして妹と思った沙雪が実は従兄弟だったことが判明し、晴れて夫婦として結ばれる時がやってくる。

 

  *金森長近(ウィキペディアより)

 

 そんな予定調和を全てひっくり返す「歴史的事実」が帰雲城を襲う

 1586年1月18日に近畿から東海・北陸を襲った、M8.2と推測される直下型の天正地震。内ヶ嶋氏理とその一族も土雪崩に呑まれて全員消息不明となり、内ケ嶋家は一瞬で滅亡した。山は深くえぐられて形も標高も変わり、町も全て埋没し、帰雲城は現在でも正確な位置が判明できないほどの被害を受けた。

 飛騨の一角が一瞬にして埋没して、生命が全て息絶える。戦国時代を舞台にした「雛の国のファンタジー」は、「スターウォーズ」の構成を取りながら、「君の名は」で起きる惨事と重なる形で終焉を迎える。そして「自然児」と設定した沙雪の人物造型を、最後まで生かし切った。

 

 悲劇が訪れるのを知らずに、山々に囲まれた里で暮らす、心優しき人たちの物語。そんな作品を本の装丁が見事に飾っている。上巻は峻厳な山岳地帯を、しんしんと降り積もる雪が覆い隠し、下巻は雪山が新緑に覆われた山に変わり、一面を深い霧が立ち込める。

 

 七龍太の師「ヨーダ竹中半兵衛と旧友で、心ならずも「皇帝」秀吉の配下となり、敵対しながらも七龍太の命を助ける、「ベイダー卿」役の飛騨国主の金森長近。秀吉亡き後は豊臣家を見限って徳川方について関ヶ原の戦で活躍し、他所の加増を受けながらも飛騨国主のままで過ごし、82歳まで長命した。

 

 

 *もう1つの、飛騨の町が消滅する物語(映画「君の名は」より)

 

 よろしければ、一押しを <m(__)m>