小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

16 まんぞく まんぞく (1986)

 「鬼平犯科帳」,「剣客商売」,「仕掛人梅安」と、池波正太郎の名前を不朽のものにした3大シリーズ。 こちらは剣客商売の「スピンオフ作品」として取り上げます。

 

【あらすじ】

 16歳の女性、堀 真琴が外出した帰りに、浪人二人に襲われた。供の山崎金吾が懸命に真琴を逃がしたが、浪人に殺されてしまった。逃げ遅れた真琴は浪人に犯されそうになるが、関口元道という医者が通りがかり、見事な剣の腕前で浪人を追い払う。その時、元道は浪人のうち一人の鼻を切り削いだ。堀真琴は助けられた後に、親代わりだった山崎金吾が殺されたことを知り、金吾の仇を討つと決心する。

 

 9年後、25歳になった堀真琴は男装をしていた。9年のうちに真琴は伯父で7千石の大身旗本、堀 内蔵助の養女となっていた。養女になる時に剣術の修行を続ける許可をもらい、道場では男相手に敵無し、というまでに剣術の腕を上げた。最近は剣術の方が面白くなり、また仇を見つけるのは雲を掴むような話で、仇討の気持ちは少しずつ薄れかけている。

 

 伯父の堀 内蔵助は真琴に婿を取ることを考えているが、真琴は自分を打ち負かすほどの男でなければ結婚する気持ちにはなれないと宣言する。そして実際に婿候補と試合をするも、真琴を打ち負かした男はいない。婿は決まらず幕府の覚えも悪い。内蔵助は頭を抱える。

 

 そんな中真琴は、たまに「うずく」と覆面をして酒に酔った侍に喧嘩をしかけては、曲げを切ったり川に投げ込んだりと、羽目を外して悪戯をするまでになってしまう。また獲物から持ち帰った「春画」をこっそりと見て、自らの身を慰める時も過ごす。

 

 

 池波正太郎の生誕100年記念で作成されたNHKのBS時代劇。安定したストーリーに加え、主演の石橋静河の好演も光り、個人的には久々にストライクなドラマとなりました。

 

 そんな真琴にまた縁談が持ち込まれ、立ち合うことになった。相手は織田平太郎道良という。だがこの立ち会いで、織田平太郎は剣を交えることなく、「このような女、抱く気もせぬ」と言い放って去ってしまう。真琴は屈辱で顔が真っ赤に。

 

 屈辱の真琴は気を紛らわすために、獲物を探してからかおうと考えたが、この日は獲物が見つからなかった。それどころか、以前真琴がからかった武士に見つけられ、付けられてしまう。そして、覆面をした、鼻を落とした不審な男も、真琴の周辺に現われる。

 

【感想】

 自分が襲われた時、長年親代わりとなって世話をしてもらった家人が、身を犠牲にして助けてもらった経験を持つ「普通の」女性の物語。この体験を機に、仇討ちをするために「適齢期を過ぎても」剣術にのめり込んでいく姿を描いています。女剣客と言えば「剣客商売」に登場する魅力的な人物の佐々木三冬を連想し、本作品でも三冬を高名な女剣客の1人として「井関道場の四天王のひとり」と触れられています。

 元々「女忍び」を描き、また「剣の天地」でも女性の剣客を描いてきた池波正太郎ならば、女性が男並みの剣の腕前を持って活躍する物語を描くのはお手のもの。そんな中にも、生理のタイミングで落ち着かなくなって悪さをしたくなり、また春画を見てはいろいろ想像したりと、25歳の独身女性を赤裸々に描いています。

 話は飛びますが、本作品を読んで家田荘子(「極道の妻たち」が有名)原作、池上遼一画の「今日子」を思い出しました。普通の女子大生がデートの途中に米軍兵から乱暴され、男は何もできずに逃げ出す中で、その場を救ってくれた黒人兵士に恋をしてしまいます。ところがその兵士は不可解な死を遂げてしまい、その謎を突き止めるためにアメリカ軍に入隊して、自らを最強の兵士にまで鍛え上げる物語。

 

   *Amazonより

 

 ところが真琴の生きた時代は江戸中期。次第にそんなわがままも通用しなくなります。伯父の堀 内蔵助は病が進行し、跡取りを早く決めなくては、大名並みの格式を持つ堀家は「絶家」となってしまいます。家名を残すためには、最悪の場合真琴と義絶しても、婿を取らなくてはならない。そこで白羽の矢が立ったのが「このような女、抱く気もせぬ」と言い放った織田平太郎。真琴に面と向かって言い放つだけの胆力があれば、「暴れ馬」真琴の手綱を取ることも可能と周囲は期待します。

 そして織田平太郎も、格式が上の立場で、かつ病を押してまで訪ねて来て、真摯な態度で婿を求める堀 内蔵助の誠意に感銘を受けます。一度は真琴の傲慢な性格を見て「言い放った」平太郎も、剣術一筋になったのにはそれなりの理由があったのだろうと推測。その理由が納得出来れば、内蔵助の誠意に応えるためにも、真琴次第だが結婚して丸く収めたいと考えます。

 対して屈辱を受けた真琴はその話を聞いて、「ならぬ、ならぬ、ならぬ!!」と絶叫するのですが・・・・

 

 本作品のタイトルが「まんぞく まんぞく」なので、その後の展開は予想がつくと思いますが、蛇足を1つ。

 もう1つ、本作品を読んで思い浮かんだ話があります。「真田太平記」の真田信之本多忠勝の娘、小松姫と結婚する際のエピソード。男勝りの小松姫が、平伏している一人一人の髻を掴んで面を上げさせて吟味します。「家康の養女」でもあり多くの者が遠慮して、されるがままとしている中で、信之は髻に手を差し伸べられた瞬間に叱咤して、鉄扇で小松姫の顔を打ちます。小松姫はこの気骨に感動して信之を選んだといい、そして真琴も同じような軌跡を描いていきます

 お転婆で不器用な女性があっちこっちぶつかって、武士の世の中を背伸びしながらかき分けて生きていく。そんな姿を池波正太郎らしく描いています。

 

  

 *私のツボに入ったNHKのBS時代劇ですが、相手役が「あの」永山絢斗。この作品では織田平太郎を好演していたのに・・・・ 残念!