小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

6-1 忍びの風①【忍び③:姉川から長篠へ】(1972)

 

【あらすじと感想 ①】~姉川の戦いと、於蝶と井笠半四郎の出会い

 

 甲賀の里にある忍びの流れ、伴太郎左衛門から修行を受けた井笠半四織田信長浅井長政姉川で一大決戦を繰り広げると聞いた武田信玄の意向で、戦いの結末を見届けるために派遣された。そこで半四郎は、徳川家康とその家臣団の果敢な戦振りに感服し、家康の家臣である鳥居強右衛門と知り合い、好意を持った。

 そこで同じく甲賀の流れで杉谷の女忍び、(「男」にしてもらった)於蝶と会う。於蝶は地元近江で浅井を味方する杉谷忍びの一員として、また昔から慕っていた杉谷善住坊が殺された仇を討つため、信長を殺害することに執念を燃やしていた。しかしその甲斐も虚しく、姉川の戦い徳川家康の勇猛な活躍もあって織田信長の勝利に終わり、杉谷忍びは皆がこの戦いで死んでしまう。

 姉川の戦いのあと、甲賀の忍びの勢力として残った山中忍びの頭領山中大和守俊房と伴太郎左衛門は今後の方針を相談する。今まではそれぞれが武将を選んで働いていたが、今後は伴忍びと山中忍びが結束して、天下人への展望が開けた織田信長のために働くという意見で一致した。しかし伴忍びの中で武田信玄に派遣されているものは、武田家の情報を流すためにそのままにしておくことになった。

 

  武田信玄ウィキペディアより)

 

 ここは前作「蝶の戦記」のラストシーンを、本作品の登場人物である井笠半四郎の視点から描いている。そして戦国争乱の中で、甲賀の忍びたちも流派によって武将を選んで仕えたが、次第に収斂されていく。

 半四郎が於蝶に惑わされて「夜の戦士」を思い出させる展開とともに、鳥居強右衛門という実直な徳川の家臣と会い、後に再会して戦国時代でも有数の場面に繋げている。

 

【あらすじと感想 ②】~三方ヶ原から長篠まで

 

 井笠半四郎のもとに、姉川の戦いで死んだと思われた於蝶が再び現れた。於蝶は織田信長への復讐を果たすために味方を必要とし、半四郎はそんな於蝶の誘いに乗ってしまう。ちょうど武田信玄は、織田信長に取って代わって天下を獲るために軍勢を京に発した。ここで武田信玄徳川家康が三方ヶ原で激突する。

 三方ヶ原の戦いで惨敗した徳川家康は必死に逃げるが、半四郎は家康を仕留めようとする。そこで家康を守る甲賀の忍びと戦って殺めてしまう。半四郎は於蝶を協力することで、甲賀を裏切る形となった

 その後信玄が亡くなって武田軍は甲府に引き返し、息を吹き返した織田信長浅井長政を滅亡に追い込んだ。於蝶は半四郎を誘って浅井攻めの本陣に忍び込み、命がけで信長に近づき飛苦無(とびくない)を投げつける。手応えあり! だが信長は影武者だった。翌日総攻撃は開始され浅井家は滅亡してしまう。於蝶はふるさとの杉谷館跡にもどり、同じく生き残りの道半と再起を目指す。

 

 信玄亡き後は、武田家は四郎勝頼が事実上の当主となった。その勝頼が再び大軍を率いて、徳川家康長篠城を包囲する。長篠城を守るのは若い城主で、絶望的な状況の中、家康を信じて疑わない奥平信昌。対して家臣らには疑心暗鬼が生じるが、鳥居強右衛門はその空気を打破するために、織田軍の援軍を確認するために自ら城を抜け出して、岡崎へ向かうと進言する。心配になった半四郎は鳥居強右衛門の影となり武田軍から抜け出す手助けをして、無事岡崎に到着すると、果たして信長は大軍を率いて来着していた。

 

 

 *奥平信昌。「どうする家康」では家康の長女亀姫の嫁入りで、印象的な場面を見せました。そして亀姫はしばらく後に、歴史上に再浮上します・(ウィキペディアより)

 

 とって返して長篠城に知らせようとする鳥居強右衛門。しかしその帰路で武田軍に捕まり、武田勝頼から、長篠城にむけて「援軍は来ないので、早々に城を明け渡すように」と呼ばわるように命じられる。絶体絶命の窮地で勝頼の言い分にも誠意を感じた鳥居強右衛門は納得するが、長篠城にある奥平信昌を見た時に心が変わる。鳥居強右衛門は叫ぶ。「早まって城を明けわたしてはなりませぬぞ」。

 鳥居強右衛門武田勝頼の怒りに会い、槍で突き刺されて絶命される。その命を賭けた叫びで長篠城は持ちこたえ、城を明けわたすことなく織田信長軍の来着を待つ。そして長篠の「野戦」で、織田信長は満を持して準備した三段重ねの鉄砲陣形で武田騎馬隊を完膚なきまでに倒す。この戦いで武田軍は主だった重臣が倒されて、その後の武田家滅亡へと進んでいく。

 

  

 *およそ50年前に本作品で描かれた鳥居強右衛門のシーンは、「どうする家康」で再現されました。(NHK)

 

 鉄砲の三段構えで有名な長篠の戦いの裏にあった、戦国版「走れメロス鳥居強右衛門という歴史的には無名の人物に象徴される、命をかけて自分の使命を貫徹する三河武士の姿に、井笠半四郎が惹かれていく様子が描かれる。その反面、「男にしてもらった」於蝶に引きずられて、結局は甲賀を裏切ってしまう半四郎。そんな半四郎が、甲賀の頭領である伴太郎左衛門と偶然すれ違うシーンは印象的である。

 於蝶と半四郎は、このあと武田家と織田家の没落を見届けることとなる。